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「あれんじ」 2022年4月2日号

【元気の処方箋】
アレルギー反応の一つ アナフィラキシーとは?

「アナフィラキシー」と聞くと、食物アレルギーが原因となって起きるものを想像する人が多いかもしれません。新型コロナウイルスワクチンの副反応として名前が挙がったことで、関心を持つ人が増えた今、アナフィラキシーの原因やメカニズムなどをお伝えします。(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

【はじめに】 古くて新しい問題のアナフィラキシー

 アナフィラキシーはよく知られるアレルギー反応の一つです。その原因として昆虫の毒(蜂毒など)、植物成分、医薬品などが知られています。
 アナフィラキシーは歴史的に古くから知られ、今から4千年以上も昔に、エジプト第一王朝の始祖とされるメネス王がハチに刺されて亡くなったとする記録が最も古いとする説もあります(注:諸説あります)。
 一方、最近では新型コロナウイルスワクチンの副反応の一つとしてアナフィラキシーがまれに生じることも知られています。
 また、食物アレルギーが原因となるアナフィラキシーはたびたび問題になるので、聞いたことがある人も多いことと思います。
 アナフィラキシーは古くて新しい問題ともいえるでしょう。


【症状】 短時間に現れる全身症状

 アレルギーには花粉症やアトピー性皮膚炎などがありますが、アナフィラキシーの特徴としては、数分から1時間ほどの短い時間に、じんましんなどの皮膚症状、嘔吐などの消化器症状、そして息切れなどの呼吸器症状など、全身に症状が現れることです。
 症状がひどい場合には血圧低下や意識レベルの低下を伴うアナフィラキシーショックになります。


【原因・メカニズム】 免疫系が過剰に強く反応
【図1】アナフィラキシーの原因は過剰な免疫応答

 アナフィラキシーの直接の原因となる物質は、他のアレルギー症状の場合と同様に、アレルゲンと呼ばれます。
 微生物が原因となる感染症のような病気とは異なり、アナフィラキシーはアレルゲンに対する身体の免疫応答が原因で病気になります。
 医薬品や蜂毒のような毒性が低い物質に対して免疫系が過剰に強く反応してしまうことが、アナフィラキシーが引き起こされるメカニズムです(図1)。


感作(かんさ)されている場合に危険性が

 アナフィラキシーが起きる人と、起きない人がいるのはなぜでしょうか。
 蜂毒によるアナフィラキシーの場合は、初めてハチに刺されてもアナフィラキシーにはなりません。過去にハチに刺されたことがある人が、再びハチに刺されることでアナフィラキシーが生じます。このように、初めて蜂毒のようなアレルゲンが体内に入り、それに反応する特殊な抗体ができてしまうことを「感作された」と呼びます。つまり、同じアレルゲンが体内に入っても、感作されている場合にのみアナフィラキシーが生じる危険性があるのです。
 この他にもさまざま要因はありますが、感作されていることはアナフィラキシーを起こす必要条件です。
 また、遺伝的な原因や環境要因によって感作されやすいかどうかが決まり、個人差の原因となることが知られています。


感作の有無を判断するIgE

 感作されているかどうかは、アレルゲンを認識するIgE(イムノグロブリンE)と呼ばれる抗体ができているかどうかで分かります。つまり、蜂毒に対するIgEを持っていれば蜂毒に感作されていることになり、次にハチに刺されるとアナフィラキシーが生じる危険性が高いのです。
 このIgEと呼ばれるタイプの抗体を発見したのは文化勲章を受けた免疫学者の石坂公成先生です。石坂先生はアメリカのジョンズ・ホプキンス大学にいた頃にアレルギーの原因となるIgEを発見しました。このIgEを発見するために石坂先生はご自身の背中を使って実験したという有名な話があります。


IgEがアレルゲンと結合すると…

 感作されてできたIgEはマスト細胞と呼ばれる細胞の表面にくっついて私たちの身体の中で待機しています。そして、IgEがアレルゲンと結合することでマスト細胞が活性化します。
 この細胞はヒスタミンなどの炎症を誘導する化学物質をたくさん抱え込んでいて、活性化するとそれらを一気に放出します。花粉によるアレルギーの場合は、飛んできた花粉が目や鼻に触れることでマスト細胞が活性化し花粉症の症状になります。
 一方で、蜂毒のように血液に乗って全身にアレルゲンが広がってしまうと、全身のマスト細胞が一斉に活性化して大量の炎症メディエーター(体内で炎症反応を起こしたり維持したりする内因性の物質の総称)を一気に放出してしまうためにアナフィラキシーが引き起こされます。


難しい場合もあるアレルゲンの解明
【図2】ポリエチレングリコールはさまざまな医薬品や
化粧品などで使用されている安全な物質

 新型コロナワクチンでは、無害なことで知られているポリエチレングリコールがアレルゲンとなっている可能性が疑われていますが、今でも研究は続けられています。
 ポリエチレングリコールはさまざまな医薬品や化粧品にも使われていますので、知らず知らずのうちに感作されている可能性も考えられるのです(図2)。
 一方で、通常は感作することがない物質が身体の中のタンパク質などに偶然くっつくことで初めてアレルゲンとなる場合もあるため、アナフィラキシーやアレルギーを引き起こすアレルゲンを解明することは難しい場合もあります。


【治療】 迅速な治療薬の投与で大事に至らない

 アナフィラキシーは急激に全身症状が現れますが、治療薬を投与することですぐに治ります。食物アレルギーなどが原因でアナフィラキシーの危険性が高い人はあらかじめ自己注射薬を渡されている場合もあります。
 ワクチン接種では注射をした後に「しばらく病院内で待っていてください」と言われますが、これはアナフィラキシーが起きないことを確認するためでもあります。
 以前から使われているワクチンでもごくまれにアナフィラキシーが引き起こされることがあります。しかし、もし運悪くアナフィラキシーが起きても、すぐに治療薬を投与できれば大事に至ることはありません。
 医師や看護師の指示に従って適切に行動することが、アナフィラキシーから身を守る最も大切なことです。


執筆者

熊本大学大学院
生命科学研究部・医学部
免疫学講座
教授 押海 裕之
・日本生体防御学会 理事長
・日本免疫学会 評議員
・日本インターフェロンサイトカイン学会 推薦幹事