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「あれんじ」 2010年4月17日号

【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
MRIも、リニアモーターカーも関係ある!?「超伝導」って、何?

 先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 一見難しそうな言葉や現象も、よくよく聞けば「なるほど!」と、ヒザを叩きたくなること請け合いです。熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第1回は「超伝導」の世界にご案内しましょう。さあ、「なるほど!」の旅をご一緒に…。

【はじめの1歩】

現代医療に欠かせないMRI(磁気共鳴画像装置)の強い磁場は、極低温に冷やされた超伝導マグネットによるもの。超伝導の世界は極低温です。さあ、凍えないように第一歩を踏み出しましょう!


Point1  永久電流  特徴1…電気抵抗ゼロ

 特定の物質を極低温に冷やしていった時に、2つの特徴を持つ特異な現象が起きます。これを「超伝導」といいます。
 超伝導を知るには、まず電気と抵抗について知る必要があります。超伝導が専門の熊本大学大学院自然科学研究科の市川聡夫教授は、物理が苦手な学生に電気について説明する時など「水の流れにたとえると分かりやすいよ」と言っているそうです。水は高低差をつけると流れ始めますが、その高さ(水圧)に相当するのが電圧。水の流れる量(水量)に当たるのが電流。杭(くい)や堰(せき)のように、流れを妨げるものが電気抵抗です。超伝導の特徴の1つは、その電気抵抗がゼロだということ。高低差がなくても水が流れる状態と言ったらいいでしょうか。電気回路の普通の導線にも小さいながら電気抵抗はありますから、必ず電圧をかけてやらないと電気を流すことはできません。しかし、抵抗がゼロなら一度電気を流し始めると、永遠に流れ続けます。それを「永久電流」と言います。
 通常なら電気を流すと導線が熱を持ったりしてエネルギーのロスが出ますが、超伝導はエネルギーのロスがないということです。


Point2  マイスナー効果  特徴2…完全反磁性
図1.完全反磁性
   (マイスナー効果)

 超伝導のもう1つの特徴は、完全反磁性を持つということ。鉄をはじめ多くの金属は、磁石などの磁場を近づけると磁性を持ち、磁石にくっつきます。これに対して反磁性とは、磁場をかけると磁場を打ち消す方向に磁性が生じる性質で、磁石にはくっつきません。水や銅、木などが代表的な物質ですが、一般的に反磁性の力は非常に弱いので気が付きにくいのです。ところが超伝導体の完全反磁性は強力で、外から磁場をかけても磁場を完全に排除して、磁力線は内部に入れません(図1)。


図2 マイスナー効果を示す実験

超伝導体を強力磁石の上に持っていくと浮くほどです(図2)。この性質は、発見者の名前を取って「マイスナー効果」とも呼ばれます。


Point3  もうすぐ発見100年  −200℃から−100℃の壁へ

 最初に超伝導が発見されたのは水銀での実験で、1911年のことでした。だから、もうすぐ発見100年になります。当時は、絶対温度のゼロK(=マイナス273・15℃)近くまで冷やす必要がありました。その後、多くの金属元素や金属化合物でも超伝導体が見つかり、超伝導に転移する温度も少しずつ高くなっていきましたが、30Kを超える超伝導物質はないだろう、と考えられていました。
 ところが1986年に、金属系ではなくセラミックスの超伝導体が見つかり、世界が沸きました。そして、1年もたたないうちに90Kまで転移温度が上がったのです。これらは「高温超伝導体」と呼ばれています。30K以下の時代には希少で高価な液体ヘリウム(4・2K)で冷やさないと実験ができませんでしたが、高温超伝導は空気から取れる安価な液体窒素(77K)が使えるため、格段に実験がしやすくなりました。
 次の問題は、金属のように加工しやすいかどうかです。セラミック系は加工しにくいのが課題ですが、多くのアイデアや技術で克服されようとしています。また最近は、別の系列の化合物も続々見つかっており、日本でも鉄とヒ素の化合物が発見されています。


Point4 ジェネシス計画 いつ見つかる?夢の室温超伝導体

 超伝導は電気抵抗がゼロなので、エネルギーのロスがないのが利点です。もし、送電線を高温超伝導物質で作ることができたら、冷却の問題はあるものの省エネの素晴らしい送電線が誕生することになります。砂漠で太陽電池を使って生み出した電気を、全世界に送電ネットワークを作って供給するという構想もあります。これが実現すればエネルギー問題が一気に解決しますから、米国をはじめ世界中の企業や大学がそのための実験や研究でしのぎを削っているわけです。日本が参加しているプロジェクトは、天地創造を描いた旧約聖書の「創世記」の英語名からとって「ジェネシス計画」と呼ばれています。
 それ以外にも超伝導技術の応用範囲は広く、医療分野では心臓や脳の磁場計測器、エネルギー分野では電力貯蔵装置、環境分野では水質浄化用磁気分離装置、エレクトロニクス分野では携帯電話の周波数をふるいにかける高感度フィルターなど、さまざまな応用が期待されています。ネックとなっている冷却の問題は、どれだけ高温で超伝導に転移する化合物を見つけられるかにかかっています。「室温で超伝導になる」という論文は出ていますが、ほかの研究室で再現できていないことなどの理由から、まだ公に認められているわけではありません。いつの日か室温超伝導物質が見つかれば、世界の科学技術は一変するかもしれません。


【ハテナ?1】 「超伝導」と「超電導」…どう違うの?

理学系の基礎の研究では「伝」を、工学系の研究では「電」を使うことが多いようです。言い換えれば、文部科学省では「超伝導」、経済産業省では「超電導」ということですね。


【ハテナ?2】 ケルビン(K)って何の単位?

 物質の温度は、原子や分子の振動の大きさによって上下します。振動が大きければエネルギーが上がり、温度も上昇します。この熱振動が最低になり、原子や分子が動かなくなった状態を「絶対零度」といいます。これ以下には下がらない最低の温度です。
 ケルビンは、この絶対零度−273.15℃をゼロとした熱力学温度(絶対温度)の国際単位。イギリスの物理学者ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)にちなんで付けられました。
0K=−273.15℃、273.15K=0℃


【ハテナ?3】 超伝導にも種類があるの?

第一種超伝導と第二種超伝導の2種類があります。金属元素の超伝導体のほとんどは第一種で、完全反磁性を示し、低い磁力で超伝導状態が壊れてしまいます。化合物を主にした第二種超伝導体は、少し磁力線が入るのを許したまま超伝導状態を保ち、ある程度強い磁力を加えても壊れないという特徴があります。第二種超伝導体の発見が、MRIなどの医療機器の実用化を可能にしました。


【なるほど!】 聞けば聞くほど奥が深いのが 超伝導の世界。
熊本大学大学院自然科学研究科
(理学専攻) 物理科学講座 
教授 市川 聡夫先生

 セラミックスは電気を通さないはずなのに、冷やしていくとある温度で急に電気抵抗ゼロの超伝導体になるなんて、アニメヒーローもびっくりの大変身です。その仕組みを解明するには量子力学が必要だそうです。しかも、まだ完全には解明されていないそうですから、市川先生たちの基礎の研究に期待したいですね。そして、いつか夢の室温超伝導物質が見つかればいいな。