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「あれんじ」 2022年2月5日号

【元気の処方箋】
「本当に痛くないの?」「どうして痛くないの?…」 無痛分娩の「?」に答えます

 「無痛分娩」という言葉は知っていても、どのような分娩なのか具体的には分からない…という人も多いのではないでしょうか。今回は、無痛分娩について基本的なことをお伝えします。(編集=坂本ミオ)

【はじめに】普及遅れている日本 興味のある人に正しい情報を

 無痛分娩は諸外国では一般的に行われています。しかし、日本ではなかなか普及しませんでした。「お腹を痛めた子だから」や、「愛情形成には陣痛の痛みを乗り越えて」といった風潮があったからでしょうか。

 最近では無痛分娩に興味を持つ妊婦さんも増えてきています。無痛分娩について皆さんの疑問にお答えします。


【Q1. お産はどうして痛いのですか?】
【図1】痛みが伝わる経路

A. 刺激が神経を介し脊髄を上って脳に伝わるから

 赤ちゃんが子宮から産道を通って産まれる際に子宮が収縮し、骨盤や産道が引き延ばされることでその刺激が神経を介して脊髄に伝わり、脊髄を上って脳に伝わり痛みとして感じます(図1)。


【Q2. 無痛分娩って安全ですか?】

A. 安全な無痛分娩を提供できる体制を整備しています

 無痛分娩を受けられた産婦さんが亡くなった、後遺症が残った、という報道が2017年頃に相次ぎました。その原因については、Q7の副作用のところで説明しますが、このようなことは、注意して薬剤を投与し、産婦さんをよく観察して、もし起こったとしても適切な処置を行うことで重篤な事態になるのを防ぐことができます。

 2018年、厚生労働省からの指導もあって、関係する学会を中心に無痛分娩関係学会・団体連絡協議会JALA

(https://www.jalasite.org/)を立ち上げました。安全な無痛分娩の提供体制を作り、安全に無痛分娩に臨める分娩施設の登録制を導入しています。


【Q3. 無痛分娩の方法は?】
【図2】無痛分娩の方法(局所麻酔薬の注射)

A. 局所麻酔薬を使い脊髄のレベルで痛みを取るのが標準的方法

 背骨の中の脊髄の周囲にある、硬膜外腔や脊髄くも膜下腔に局所麻酔薬を入れ脊髄のレベルで痛みを取ります(硬膜外鎮痛)。細い針で局所麻酔後、針を進めるので想像ほど痛くありません。硬膜外腔には細く柔らかい管を入れて長時間麻酔を続けることができます(図2)。

 分娩の経過に与える影響を少なくするために弱い麻酔薬を使用し、おなかの張りが分かり、足の筋力が落ちないよう調節していきます。この方法は世界中で最も標準的な方法として普及しています。


【Q4. 無痛分娩のメリットは?】

A. リラックスしてお産に臨め産後の回復も早いことが多い

 陣痛の痛みに対するストレスや恐怖心を和らげ、リラックスしてお産に臨むことができます。初産婦さんは「どのくらい痛いんだろう」、経産婦さんでは「もうあの痛みは味わいたくない」と、不安でいっぱいのことと思います。

 通常の分娩では痛みに耐えることで体力を消耗しますが、無痛分娩では疲労が少なく、産後の回復が早いことが多いため、産後に赤ちゃんのお世話がスムーズにできるようです。


【Q5. 無痛分娩って全く痛くないのですか?】

A. 痛みはかなり軽くなるが、完全な無痛ではない

 無痛分娩といわれていますが、完全な無痛ではありません。痛みの感じ方には個人差がありますが、ほとんどの場合痛みはかなり軽くなります。

 効果が不十分な場合には薬の種類を変えたり、カテーテルの位置調整や入れ直しを行ったりすることもあります。


【Q6. 無痛分娩はいつごろ始めるんですか?】

A. 妊産婦さんの希望で

 基本的には妊産婦さんが希望された時です。目安としては子宮口が4pほど開いた時、痛みとしては陣痛が生理痛を上回った時です(個人差があります)。


【Q7. 無痛分娩の副作用や合併症は?】

A. リスクについても知っておきましょう

@よく起こるもの
かゆみ、血圧低下、下肢のしびれ、発熱、排尿障害(尿道カテーテルを使用します)

Aまれに起こるもの
局所麻酔薬中毒:局所麻酔薬が血管の中へ入ったり、使用量が多くなったために薬剤の血中濃度が上がることによって起こります。初期の症状は口唇のしびれ、耳鳴りなど。重症の場合には意識がぼんやりしたり不整脈が出たりすることがあります。初期に対応することで重篤になることを防止できます。

高位脊髄くも膜下麻酔:硬膜外麻酔の管が脊髄くも膜下腔に入ってしまうことがあります。初期の症状は下肢のしびれが強くなった、下肢が動かない、血圧低下などです。重症の場合には呼吸がしにくくなったり、意識がぼんやりすることがあります。初期に対処することで重篤になることを防止できます。

B産後まで続くもの
頭痛(硬膜穿刺(せんし)後頭痛):約1%(100人に1人)に起こるとされています。座ったり、立ち上がったりすることで増強するのが特徴です。1週間ほどで徐々に改善することがほとんどですが、症状が続く場合には他の治療が必要になる場合もあります。

C後遺症が残るもの
硬膜外腔の感染、出血:発生頻度は非常に低い(20万例に1例)ですが、早期に背骨の手術が必要になったり、下肢のしびれや麻痺などの後遺症が残ることがあります。

D無痛分娩をしなくてもお産の後に起こることがあるもの
産後神経障害(お尻や足の感覚低下)、腰痛


【Q8. 無痛分娩は分娩や胎児に影響しますか?】

A. 器械分娩が増える傾向が

 無痛分娩は時間が長くなったり、器械分娩(吸引分娩、鉗子(かんし)分娩)が増えたりすることが分かっています。帝王切開になりやすいということはありません。また、無痛分娩で急に強い痛みを取ることで、一時的に胎児の心拍数が低下することがありますが、対処することで大きな問題はありません。


【Q9. 無痛分娩だと計画出産になりますか?】
執筆者
熊本大学病院
産科麻酔学寄附講座
杉田 道子 特任教授

・日本麻酔科学会専門医、指導医
・日本ペインクリニック学会 専門医
・日本小児麻酔学会認定医
・日本産科麻酔学会社員

A. 施設によって異なります 

 出産される施設によって異なります。安全性を高めるために人手の多い日中での分娩を目指して計画分娩をする施設や、24時間体制で自然陣発でも無痛分娩に対応できる施設もあります。詳しくは希望される施設にお尋ねください。


【Q10. 無痛分娩ができない人はいますか?】

A. 特定の疾患や治療によってはできない場合も

 硬膜外鎮痛は次に挙げる疾患がある妊産婦さんではできない場合があります。

@血が固まりにくい、血小板が少ない(妊娠で減少することがあります)、血液サラサラの治療をしている
A背骨の変形や手術の既往、脊髄や神経の病気がある場合
B注射する部位および全身の感染症
C局所麻酔薬アレルギー

 なお、熊本大学病院では現在のところ、無痛分娩の実施は医学的に必要と判断される妊産婦さんに限って行っています。
希望される方はかかりつけ産科にてご相談ください。