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「あれんじ」 2022年1月8日号

【四季の風】
第56回 大寒(だいかん)

 一月二〇、二一日頃が寒さがきわまる「大寒」。次の句のように、まるで「敵(かたき)」のような寒さだが、心地よくもある。

大寒と言ひて講義を始めけり     中正

大寒と敵のごとく対(むか)ひけり       富安風生

きびきびと万物寒に入りにけり 

 大寒といって思い出すのが、学生時代の一限目の講義。何しろ半世紀も前のことで、暖房などもちろんない。私が熱心に聴いた講義は、受講生といっても毎年ほんの四〜五人なのに、どういうわけか大講義室。三年連続で聴いてやっと完結する講義で、きわめて難解。先生も学生も皆オーバーを着ていたが、その尋常ではない大寒の寒さと講義のとてつもない難解さに、私は心酔していたのかもしれない。今思えば、このわずかな受講生のほとんどが、大学院へ進学して大学教師になった。

 この静かな語り口の恩師は小柄で、とにかく謙虚でよく学ばれたが、いつか私たち大学院生が先生の還暦祝いに壁掛け時計を贈ったときも、「時を惜しんで勉強せよということですね」と言われて、恐縮したものだ。

 だから私は、毎年大寒になると亡き先生を思い出して、その日の講義は「今日は大寒です」のひと声から始めたものだ。