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「あれんじ」 2021年9月4日号

【元気の処方箋】
適切な治療で治る!骨盤臓器脱

「骨盤臓器脱」という病気をご存じでしょうか。女性にとって気になる疾患だといえます。今回は、骨盤臓器脱の原因や症状、治療方法などについてお伝えします。(編集=坂本ミオ)

【はじめに】いくつかの疾患の総称

 骨盤臓器脱は、膀胱瘤(ぼうこうりゅう)、子宮脱、直腸瘤、腟(ちつ)断端脱など骨盤内の臓器が腟壁とともに腟から脱出してくる疾患の総称です(図1)。

 放置すると、排尿・排便困難、性機能への影響、尿失禁などさまざまな症状が起こり、生活の質を下げることになります。


【原因】出産や肥満、加齢などが原因や悪化の要因に

 骨盤は仙骨、腸骨、恥骨など数種類の骨で形成されており、骨盤底を形成しているのは筋肉、靱帯(じんたい)、結合織(けつごうしき)などが層状に重なってできたハンモック状の軟組織です。骨盤底を骨盤底筋群と呼ぶこともあります。

 立って生活する人間は、この骨盤底のハンモックに常に負荷がかかっています。さらに妊娠や出産、加齢などで骨盤底が損傷を受けたり弱ったりすることで、骨盤底の開口部の一つである腟から臓器が脱出し、骨盤臓器脱となります。

 また、複数回の出産や高度の肥満のほか、ひどい便秘など腹圧のかかる生活習慣は骨盤臓器脱を悪化させる要因となります。

【メモ】実は身近な疾患
 骨盤臓器脱の50〜79歳における罹患(りかん)率は無症候性のものを含めると41.1%であると報告されています。また、骨盤臓器脱および尿失禁患者が、80歳までに外科的治療を受ける生涯リスクは11.8%という報告も。つまり、骨盤臓器脱は身近な疾患です。


【症状】違和感や排せつ障害など症状があれば受診を
【表1】

 骨盤臓器脱の初期は、子宮や膀胱などの「下垂感」や「股に何かが挟まる感じ」といった症状です。症状が進む(下垂が悪化する)と、脱出した臓器が戻らなくなる、膀胱瘤や子宮脱であれば尿が出にくくなる、直腸瘤であれば便を出しづらくなる、といった排せつ障害も来します。脱出したものを自分で腟の中に押し込んで排せつしている人もいます。

 また、子宮を取った後に腟断端脱という骨盤臓器脱が起こることがあります。子宮がないから骨盤臓器脱が起こらないというわけではありません。

 表1のような症状があれば骨盤臓器脱の可能性があります。思い当たる症状があれば、一度受診しましょう。


【診断】さまざまな検査で的確に診断 治療方針の決定へ
【図2】

 骨盤臓器脱は泌尿器科と婦人科の境界領域であり、泌尿器科もしくは婦人科で診断を受けます。どの臓器がどの程度下がっているのかを的確に診断することが治療方針を決定する上で重要です。

 診断をするために行う検査には以下のようなものがあります。

◎POP―Q(pelvic organ prolapse quantification)
 骨盤臓器脱の診断基準となる評価方法で、複数の計測部位を測定します。世界共通で広く使用されています。

◎MRI・CT検査
 骨盤臓器脱や骨盤内の腫瘍性病変の有無を確認するために行います。

◎超音波検査
 経腟エコーと会陰エコーがあり、簡単で有用な検査です。会陰にエコーをあてて観察すると、力んでもらった時に落ちてくる臓器がリアルに分かります(図2)。

 他にも排便時造影検査などを必要に応じて適宜組み合わせて行います。


【治療】根本的治療は外科的治療に 総合的な判断を
【表2】各術式の比較

 保存的治療には、ペッサリーリングやサポート下着で骨盤臓器脱の脱出を抑えるといった方法があります。初期であれば、骨盤底筋体操で進行を抑えることも可能です。

 根本的治療となると、外科的治療しかありません。外科的治療には大きく分けて以下のようなものがあります。手術方法は、年齢、体型、その人の活動性など種々の背景を総合して選択します(表2)。

◎NTR(native tissue repair)
 現在も行われている昔からの手術で、さまざまな方法があります。メッシュは使用せずに骨盤底の再建を行います。

◎TVM(tension-free vaginal mesh)
 メッシュを用いて骨盤臓器脱を(ハンモックのように)面で支える経腟的手術です。体内のしっかりとした靱帯に、メッシュの骨格となるアームを通します(図3)。弱った組織を骨盤底再建に用いないので再発が少ないですが、エキスパートによる精緻な手技が必要です。

◎LSC(lapaloscopic sacrocolpopexy)
 腹腔鏡下にメッシュを用いて行う手術です。腹腔鏡下で行うため高度な技術が必要となりま
す。各ポイントでメッシュと組織を縫い付けるのでメッシュのズレへの懸念が軽減され、早期社会復帰を望む方に適していますが、高度肥満の方には向いていません。

◎RSC(robot-assisted sacrocolpopexy )
 LSCで行う内容を、ロボット補助下で行います。


【図3】TVM-A


【おわりに】一人で悩まず、相談を

 骨盤臓器脱は身近な病気にもかかわらず、相談しにくい、誰に相談していいのか分からない、などの理由で一人で悩んでいる方が多いようです。

 「女性泌尿器科」や、泌尿器科と婦人科の英語が合わさった造語「ウロギネコロジー」といった骨盤臓器脱専門の外来窓口が少なく、専門的に診療している医師が少ないのも現状です。しかし、骨盤臓器脱は治る病気です。専門医に相談し、適切な治療を受けて克服しましょう。

※熊本大学病院泌尿器科では、主に「骨盤臓器脱」を対象とした「女性泌尿器外来」を、第4もしくは第5金曜日に開設しています。


執筆者

熊本大学病院泌尿器科
「女性泌尿器外来」担当

鍬田 知子 医師 

第一東和会病院(大阪府)
女性泌尿器科・ウロギネコロジーセンター

・日本泌尿器科学会専門医・指導医
・日本女性骨盤底医学会会員
・骨盤臓器脱手術学会会員
・日本泌尿器内視鏡学会会員
・日本排尿機能学会会員