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「あれんじ」 2010年11月20日号

【四季の風】
【第8回 種(たね)を採(と)る】

めぐりくる季節の風に乗せて、四季の歌である俳句をお届けします。

種を採る この世に仮の宿りして 中正

 種のことは本当はよく知らないのだが、何となく心ひかれて、時々俳句に詠(よ)む。
 「種物(たねもの)」や「種袋」といえば、冬の間とっておいて春に蒔(ま)く種で、春の季語。

ものの種にぎればいのちひしめける   日野草城

のような名句もある。
 私が好きなのは、秋の種採り。秋ともなれば庭や郊外を歩いて、ふとつまんだりする。それを机の上に置いて眺めるのも好きだ。種を見ていると、透明な秋の日差しやさわやかな風が見えるようだ。種をてのひらに載せたときの感触も、何とも言えない。

てのひらに風より軽き種を採る   中正

種採ってにはかに風の起りけり   〃

てのひらのよろこぶ種を採りにけり 〃
 山法師(やまぼうし)の実、山査子(さんざし)の実、椿の実。どれも楽しい姿をしているが、よく見ると何だか宇宙のいのちがつまっているようで、不思議な思いにとらわれる。森羅万象、この世のいとなみのすべてが、ここからはじまるような気がする。この小さな種から、この世のはじまりの風が吹いてくる。私も、これと同じ小さな種のひとつ。同じひとつの大きないのちから分かれて生まれてきたものである。

種を採る この世に仮の宿りして 中正