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「あれんじ」 2021年7月3日号

【元気の処方箋】
早期発見・早期治療へ 今どうなっている?肝炎・肝がん

 ウイルス感染と脂肪肝が主な原因となる「肝がん」。肝炎ウイルス感染の検査や治療の現状に加え、肝がん撲滅に向けた取り組みなどについてお伝えします。

【はじめに】

 国内で死亡数が多いがんの5位が「肝臓がん(肝がん)」(男女計、2018年)です。年間約3万人が亡くなっています。熊本県の肝がん粗死亡率は、2014年から17年までほぼ毎年全国都道府県でワースト10に入り、17年は6位にまで上昇しています。

 肝がん(原発性)の主原因はウイルス性肝炎と脂肪肝ですが、問題はそれをいかに早期発見し、早期治療するかです。


【まずは1度「肝炎ウイルス検査」を】
【図1】県内全域の専門医療機関を簡単に予約できます

 ウイルス性肝炎は、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変の順に進行して肝がんを発症する場合があります。また、肝炎ウイルスは発見された順番にアルファベット名になっています。

 C型肝炎はかつての医療行為(静脈注射や輸血)などで感染したとされますが、多くがどこで感染したのか分かりません。感染後約30年の経過を経て、肝硬変・肝がんに至る病気で、肝がんの最大の原因といわれてきました。

 また、B型肝炎もかつては母子感染や予防接種などにより感染が広がりました。現在も家族内感染や性行為による水平感染が散発しており、2016年10月からは乳児へのB型肝炎ウイルスワクチン定期接種が開始されました。しかし、既に200万人以上の方が肝炎ウイルスに感染しています。

 肝臓は「沈黙の臓器」。悪化してもほとんど自覚症状はなく、黄疸(おうだん)や腹水などが見られた場合は末期症状です。肝がんは60代から増加するように、加齢もリスクです。まずは、かかりつけ医などで「肝炎ウイルス検査」を1度、受けてください。簡単な血液検査で、熊本県では無料で検査できます。

 出産や手術前には必ず「肝炎ウイルス検査」が実施されています。説明がない場合は、結果を必ず主治医に聞いてください。陽性であれば、熊大病院・肝疾患センターまでご相談ください。専門医療機関をご紹介します(図1)。熊本県では精密検査もすべて無料です。


【飛躍的に進歩したC型肝炎ウイルス治療】

 肝がんを発症する根本となる慢性肝炎の原因は、B型肝炎ウイルス(HBV)感染、C型肝炎ウイルス(HCV)感染、脂肪肝に大別されます。

 その中で、これまで肝がん死亡原因の多くを占めていたのがHCV感染です。HCVの治療薬にはインターフェロンが使われてきましたが、効果には個人差があり、重い副作用が出る場合もありました。しかし2014年以降、画期的なインターフェロンフリーの「直接作用型抗ウイルス薬」の開発が相次ぎ、約99%の方がHCVを体外排除(駆除)できるまでに進歩しました。

 しかし、肝炎ウイルス感染が分かった時点で、既に慢性肝炎や肝硬変を発症している人も多く、HCV排除後に肝がんを発症する例も珍しくありません。HCVが駆除できても、慢性肝炎が完治したわけではないのです。


【B型肝炎ウイルスは再活性化に注意】

 HBVはいったん感染すると肝臓から消えることはありません。しかし、B型肝炎ウイルス薬も開発が進み、ウイルスは排除できないものの抑え込むことが可能になっています。

 ただし臨床的には治癒の状態となっても、ステロイドなどの免疫抑制剤や抗がん剤などを使用すると肝臓に潜んでいるHBVが増えて、肝炎を起こすことがあります。

 ステロイドはぜんそく、突発性難聴、リウマチ性疾患、膠原病などでよく使用されます。一部の症例においては劇症肝炎に至り、致死的な経過をたどることが報告されています。

 特に、HBs抗原が陽性の方は速やかに肝臓専門医に相談してください。またHBs抗原が陰性でも、HBc抗体が陽性の場合は過去にHBVに感染したことがあり、肝臓の中に微量のウイルスが存在します。

 免疫抑制剤や抗がん剤を使用する場合は、HBV再活性化に対する対策が必要ですので、必ず主治医の先生と相談してください。


【熊本では肝炎・脂肪肝に対するプロジェクトが始動!】
【図2】熊本脂肪肝プロジェクト あなたの肝臓の硬さを調べてみよう

 ウイルス性肝炎の治療が飛躍的に進歩する一方、脂肪肝による肝がんが増えています。ですから現在の課題は、肝炎ウイルス感染の早期発見とC型肝炎ウイルス治療後のフォロー、そして脂肪肝の早期発見です。

 ウイルス性肝炎に対し、熊本県では「ウイルス性肝炎早期発見・治療サポートプロジェクトin熊本」を推進しています。熊本県肝疾患連携拠点病院、肝疾患センターを連絡拠点とし、肝臓を専門としない診療科(眼科や整形外科など)で術前肝炎ウイルス検査が陽性と判明した患者さんを、専門医療機関へスムーズに紹介する仕組みを構築しています(図1)。

 また看護師、臨床検査技師、薬剤師などによる「肝疾患コーディネーター」を育成。現在約400人が県内各地で肝炎ウイルス検査の受診や、陽性者への医療機関受診勧奨の活動を展開しています。

 このプロジェクトを発展させた「熊本脂肪肝プロジェクト」も2020年12月に始動しました。これは脂肪肝の生命予後と関連する肝臓の線維化(硬さ)を予測する「FIBー4index」を用い、病状が進行する前に専門医に受診してもらうシステムです(図2)。

 スマートフォンからアクセスし、肝機能など数値を入力すると脂肪肝の段階が判定されます。危険度が高い方は、熊大病院肝疾患センターに電話やファクスでご連絡ください。こちらから各地域の専門医療機関を直接予約します。

 肝炎ではなく単純脂肪肝の段階であれば、食事や運動での改善が十分可能です。慢性肝炎や肝硬変へ移行する前、脂肪肝の段階で発見するためにも、QRコードからアクセスしてみてください。肝臓の硬さを知ることはとても重要です。


【執筆者】

熊本大学大学院生命科学研究部
消化器内科学講座
田中 靖人 教授

・熊本大学病院 副病院長
・熊本大学病院 肝疾患センター長
・熊本大学病院 光学医療診療部長
・日本内科学会認定内科医・指導医
・日本消化器病学会専門医・指導医・財団評議員
・日本肝臓学会専門医・指導医・理事
・日本臨床検査医学会専門医・評議員
・日本消化器内視鏡学会専門医