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「あれんじ」 2010年11月20日号

【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
天地創造から未来が見える! 「地球環境科学」を科学する?

 先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか!
 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第7回のテーマは「地球環境科学」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。

【はじめの1歩】

 「地球環境」については、人並みには知っているつもり。でも、それに「科学」が付くとなると「?」マークが付いたような感じです。生活者の目で見た「地球環境」、政治家の目で見た「地球環境」、経済界から見た「地球環境」…、それぞれに違うはず。では科学の目で見た「地球環境」とは、どういうものなのでしょうか?


Point1 地球環境科学とは?

 地球や火星の表面は、岩石や鉱物で覆われています。これらはどのようにしてできたのでしょうか?
 「『地球環境科学』とは、地球をはじめとする惑星で、太陽系が形成され始めた時から現在までに岩石圏(表層の硬い部分)で起こった現象を理解する学問です。そのために、さまざまな鉱物がつくられる過程と、それがどのような条件のもとでつくられたかを解明する研究をしています」と、熊本大学大学院自然科学研究科の磯部博志准教授。
 磯部研究室では、独自のアイデアを凝らした手作りの装置を使って実験をしています。現在の主な研究テーマは、熱水と鉱物の反応による新たな鉱物のでき方や変化についての研究、太陽系ができた初期の惑星物質についての研究などです。


Point2 原始太陽系の成り立ち

 宇宙は約137億年前に誕生し、銀河系ができたのは130億年ぐらい前だと考えられています。
 最初のうちは、星の材料として水素とヘリウムしかなかったので、岩石でできた惑星はありませんでしたが、星の中で起こっている核融合で炭素やケイ素、鉄などの重い元素が生まれて宇宙空間に飛び散り、地球や火星のような岩石惑星の材料がそろいました。それが塵となって星間ガスに混じり、銀河内を漂っていました。このような星間ガスが母体となって、密度の高い分子雲となり、分子雲は自らの重力で収縮するとともに回転を始めます。 
 これがやがて円盤形の原始太陽系星雲となり、中心部は原始太陽へと成長を始め、その周りを原始惑星が回る原始太陽系が誕生します。これが約46億年前だと言われています。
 原始惑星は衝突や合体を繰り返して大きくなっていきますが、太陽に近い内側では岩石を、太陽から遠くて温度が低い外側では氷を主成分とした惑星ができました。氷の惑星の中でも木星や土星は、周りのガスを大気として引き込み巨大なガス惑星となったのです。


【メモ1】 月は地球の子ども?

 月の成り立ちには親子説、兄弟説、捕獲説など諸説ありますが、一番有力なのはジャイアント・インパクト説です。原始地球が誕生して約5000万年後に、地球と同じ軌道を回っていた火星ぐらいの大きさの惑星がぶつかりました(ジャイアント・インパクト)。その時飛び散った地球の表面岩石と、ぶつかった惑星の破片が集まって、月ができたと言われます。


Point3 原初の地球に降り注いだ「酸性雨」

 地球は10個ほどの原始惑星が衝突、合体してできたと言われます。
 最初のうちは、地球の表面はどろどろに溶けていましたが、次第に温度が下がってきてセ氏300度ぐらいになったころ、初めて雨が降ったと考えられています。
 そのころの大気は、今の海をつくっている水や石灰岩に含まれる二酸化炭素がすべて気体として存在しましたから、今の200〜300倍ほどの圧力がありました。圧力が高ければ水の沸点も高くなるので、地球に降った最初の雨はセ氏300度ぐらいの高温の「炭酸水」だったはずです。しかも、硫酸が混じっていましたから強い「酸性雨」でした。約40億年前に、地球の岩石の上に降った高温の酸性雨は、ものすごい勢いで岩石を溶かし、そこからまた新たな鉱物ができていったと考えられます。今でも、阿蘇や九重の火山の地下では同じことが起こっているのです。
 やがて、海が冷えると生命が誕生します。それが38億年ほど前です。「地球は、太陽から適度に離れた場所に、たまたま岩石の材料と水を持って生まれましたが、生命誕生にとっては幸運としか言いようがありません」と、磯部准教授は語ります。これまで何百もの惑星が見つかっていますが、地球のような“好条件”の惑星はほとんどないそうです。


【メモ2】

月は地球から遠ざかっている
 地球から月までの距離は約38万km余りですが、実は、月は地球から少しずつ遠ざかっているのです。その変化は1年間に約4cmという、つめが伸びるのと同じくらいのスピードです。これは、月と地球の間に働く潮汐(ちょうせき)作用のせいです。
 月は地球の引力の影響のために、公転と自転の周期が同じでいつも同じ面を地球に向けています。引力は相互作用ですから、月が地球に及ぼす潮汐力と同じ力が月にも働いていて、長い間に月は地球に向いた方向にほんのわずかだけ伸びた形になっています。ただし、地球の私たちからは、伸びた長い面を見ることはできません。話を戻すと、潮汐力のせいで地球の自転は100年間に約1/1000秒の割で遅くなっており、地球上に多細胞生物が現れた6億年前には、1年は400日で1日は22時間ぐらいだったと言われます。地球が自転のエネルギーを失った分、月は公転のエネルギーを得てスピードを増すので軌道が大きくなります。つまり、地球から遠ざかっていくのです。
 遠い将来、月の公転周期と地球の自転周期が同じになり、月は地球の片側の半球からしか見えなくなります。でも、そのころは人類もとうに滅びているかもしれませんが。


Point4 新しい岩石をつくる「熱水流体」

 地球の内部は巨大な圧力鍋のようなものです。
 今も数千度の高温を保つ中心部から熱がゆっくりと伝わってきているため、地下10qあたりで温度は低くてもセ氏300度、圧力は数千気圧にのぼります。地下深くにもわずかながら水が存在しますが、当然その水は高温ですから「熱水流体」と呼ばれています。この熱水流体が、新しい岩石・鉱物をつくる大きな要因となっているのです。
 地球誕生のころと同じように、高温、高圧という条件のもとで熱水流体によって岩石の一部が溶け出し、流れて移動した先で条件が変化することで、組成の異なる新しい岩石がつくられています。
 地表近くの岩石圏の環境は、固定しているのではなく常に変化し続け、さまざまに姿を変えて多様な岩石をつくっているのです。
 磯部研究室では、このような環境を実験室の中で再現しています。熱水流体が循環できるような装置も、自分たちで溶接した手作りのものです。温度や圧力、鉱物の構成などの条件を変えて、数カ月から半年にわたる息の長い実験を行います。実験時間の経過につれてできてくるさまざまな岩石を実際の岩石や隕石と比較して、地球や火星などの太陽系惑星の成り立ちを研究しています。
 そして地球の過去が分かれば、未来も見えてくるはずです。


【メモ3】

火星が赤いわけ
 火星は地球と同じ岩石惑星で地球とよく似ていますが、岩石には鉄分が多く含まれています。火星が赤く見えるのは、表面に赤鉄鉱などの酸化鉄(赤さび)が存在するためだと考えられています。では、なぜ酸化鉄が火星の表面を覆うほど大量にできたのでしょうか? 
 火星には巨大な火山がたくさんあるので、かつては活発な火山活動が起こっていたはずです。そのころは、マグマとともに硫黄を含む高温の水蒸気や熱水が存在し、それらが岩石と反応してできた酸化鉄が火山の噴火で大量にまき散らされ、火星は赤くなったのだというのが磯部説。実際に、実験室で火星の火山活動に相当するような条件で実験してみると、赤い酸化鉄の粒が大量にできるのです。


【なるほど!】

 磯部先生のお話を聞いていると、太陽系や地球が誕生したころの壮大なドラマが目に浮かぶようでした。まさに神話の中の天地創造のシーンに重なります。それを実験室で再現しているうちに、小さな地球や火星が生まれたら…、と想像は限りなく広がります。


地球内部は巨大な圧力鍋のようなもの。
それを実験室で再現することで、地球誕生のドラマを解明しようと、
研究に取り組んでいます。