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「あれんじ」 2021年5月1日号

【元気!の処方箋】
目にも“予防医学”を 守りたい子どもの目の健康

 近視発症が低年齢化し、有病率が増加しています。スマートフォンなどの普及、多用の影響がいわれる中、コロナ禍によるステイホームで、その傾向がますます心配されます。そこで今回は、子どもの「目」の健康について話を聞きました。(取材・文=坂本ミオ)

【はじめに】世界的に進む近視の若年化
【図1】「裸眼視力 1.0 未満の者」の割合の推移

 近視の若年化は世界的な傾向です。近視には、遺伝的な要因と環境要因があります。アジア人の方が欧米人より有病率が高いのですが、最近はアメリカ、ヨーロッパなどでも増加しています。それは、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などのデジタルデバイスが発達、普及したことが関係していると考えられます。

 日本も同様です。「裸眼視力1.0未満の者」の割合は、令和元年度に小学校、中学校、高等学校で過去最大の数字を示しています。中学校では半数以上、高等学校では7割近いという割合にも注目してほしいと思います(図1)。

 近視にはいくつか種類がありますが、「眼軸長(がんじくちょう)」と呼ばれる目の奥行きの長さの変化によるものがほとんどです(図2)。これは、目の成長過程で起きてきます。そのため多くの近視は未成年で発症しますが、発症年齢を少しでも遅らせることが、その後の目の健康のためにとても大事です。


<井上教授に聞きました>【Q】近視になる年齢が低いと、どのような影響があるのですか?
【図2】目の仕組みと、正視・近視の違い

【A】遅らせたい発症年齢
近視の重症化や次の病気につながるリスクが大に

 必要な視力が得られる「正視」に対して近視は、図2のように眼軸長が長くなります。何らかの影響で伸び過ぎるのですが、その年齢が低いほど目が柔らかい状態にあるので、物理的に悪い影響が起きてきます。

 それが、近視に伴う合併症です。緑内障や網膜剝離、近視性黄斑症といった疾患です。近視が次の病気につながってしまうのです。これらの病気は、重症になれば対策が難しいため、注意が必要です。

 また、早くに近視が始まると、重症になることが多くなります。近視にならないよう心掛けることが一番ですが、遺伝もあるため防げないこともあるでしょう。その場合でも、できるだけ発症年齢を遅らせるよう気を付けましょう。これは、世界的に大きな課題とされています。



【Q】近視を治すことはできますか?

【A】眼軸長が伸びた近視は治らない
視力が下がる他の疾患もあるため専門医の受診を

 図2に示した、眼軸長が伸びた近視の場合、いったん伸びたものは元に戻りません。つまり、治すことはできません。

 しかし、ピントを調節する目の筋肉が持続的に緊張した状態になる調節緊張症による近視の場合は、目薬の点眼により目の筋肉の緊張状態をほぐすことで、効果が得られます。

 気を付けたいのは、学校の検査は視力が出ているかどうかを調べるものだということです。視力が出ていないから即近視、とは言えません。調節緊張症の場合もありますし、他の病気が原因となっているかもしれません。検査結果で視力に問題があれば、必ず眼科を受診し、きちんと診断を受けましょう。


【Q】近視にならない、また進行を防ぐ ためにはどうすればいいですか?

【A】長時間見続けない、屋外で過ごす時間を増やす…
徐々に出ている新しい試みによるデータ

 基本的には、本でもデジタルデバイスでも長時間連続して見続けないことが大事です。近視だけでなく、急性内斜視が突然起き、治らない場合もあります。30分に1回は視線を上げて遠くを見るようにしたいものです。姿勢にも気を付けましょう。集中しすぎて顔が本やスマホなどに近づき過ぎていませんか。

 最近、屋外で過ごした時間が長いほど近視になりにくいことが分かってきました。1日平均2時間、日陰でいいので屋外で過ごすことが勧められています。学校生活の中で、屋外で過ごす時間を取り入れた台湾の実証実験では、良いデータが得られているそうです。

 近視を進みにくくする研究も進んでいます。多焦点の眼鏡やコンタクトレンズ、就寝時に着用し、角膜の形状を矯正するコンタクト・オルソケラトロジーなどです。それぞれにメリットデメリットありますが、この2、3年でデータが集約されてくると思います。


【Q】子どものコンタクトレンズ使用で気を付けるべきことは?

【A】自分で管理し、ルールを守ろう
眼鏡も必ず持っておくように

 コンタクトレンズの着用は、自分で管理できるようになってからが基本です。運動部の活動など特別な事情がある場合、親の管理の下「この時間だけ」という使い方もあるかもしれませんが、小学校低学年ではそれも危険です。

 使い始めてから注意してほしいのは「ルールを守る」こと。使用に慣れると、装着時間や洗浄方法などがおざなりになることも多いようです。しかし、それが原因で大変危険な症状が起きることもあります。特に怖いのは角膜潰瘍です。時々治りにくいものがあり、視力が奪われる場合もあります。

 また、コンタクトレンズ着用を始めても、自分に合う眼鏡を必ず持っておきましょう。コンタクトで不調が起きた際、眼鏡がないと困りますし、無理してコンタクトを使い続ければ悪化させることになります。自分の視力に合った、そして見かけ的にも満足する眼鏡を持ち、常に「両方使える」状況にしておきたいものです。


【おわりに】社会的損失につながる近視 「予防」が大きな課題

 ユーチューブやゲームなどは、夢中になって大人でもつい時間を忘れがちです。子どもが自分で律することはまず無理と考え、周囲の大人が管理し、少しでも近視の予防に努めてほしいと思います。

 年代ごとの近視の状況を見ると、若年層になるほど増えており、社会はこれから、近視や近視を原因とする疾患を持つ人の割合が増えていきます。視力が理由でできない仕事もあります。近視は個人的な問題として軽く見られがちですが、実はその結果による社会的・経済的損失は大きいのです。

 予防医学の大切さが言われる時代に、近視を中心とする目の健康に関しては、少し意識が薄かったように思います。しかし今、世界が大きな課題と認識しています。発症の予防、そして発症年齢の低下を防ぐため、家庭でできることに取り組みましょう。


話を聞いたのは
熊本大学大学院生命科学研究部
眼科学講座 

井上 俊洋 教授
・日本眼科学会眼科専門医
・日本緑内障学会評議員