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「あれんじ」 2021年2月6日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第91回】知られない出産

女性医療従事者によるリレーエッセー【第91回】

【第91回】知られない出産
熊本バースクリニック
主任助産師
端迫(はさこ) 玲奈

 赤ちゃんの誕生は多くの喜びと幸せに満ちています。助産師になって9年、人生の一大イベントに寄り添わせていただけることに感謝する毎日です。

 妊娠すれば元気な赤ちゃんが生まれるはずと思っている方は少なくないと思います。でも実際は、さまざまな出産があり、悲しみの中で出産に挑む産婦もいます。

 私は、死産という悲しみの中での出産を経験した一人です。医師から「赤ちゃんの心臓が動いていない」と言われ、妊娠週数に基づいて、薬剤を使用し陣痛を起こして、出産しなければなりませんでした。

 「陣痛は、生きて生まれてくるから受け入れられる。おなかの子どもは亡くなっているのに、あの苦しみに耐えられるのか」。産婦人科という幸せに満ちた場所で一人、別世界にいる感じがしました。退院後も赤ちゃんがいない現実を受け止められず、泣く日々でした。

 50人に1人が死産を経験していますが、流産に比べ死産の実態を知る人は少ないでしょう。「なぜ私だけこんな悲しい思いをしなければならないのか…。助産師は続けられない」と思った日もありました。

 それでも何とか仕事を続け、妊婦さんや赤ちゃんから元気をもらったり、悲しみの出産をする産婦さんに寄り添ったりしながら時が流れました。時間はかかりましたが、私にも新たな妊娠と出産があり、4人に増えた子どもたちと幸せに囲まれています。

 世の中に知られない悲しい出産に関わることも私の大切な仕事です。死産を経験した私だからこそ寄り添えるお産があると信じています。