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「あれんじ」 2021年2月6日号

【元気の処方箋】
進化する整形外科の薬物治療 〜骨粗しょう症と関節リウマチ。薬物治療の今〜

 加齢とともにお世話になる機会が増える整形外科。「手術」のイメージが強いですが、効果の高い薬剤の開発が進み、診療の現場で使われているそうです。今回は、骨粗しょう症と関節リウマチの薬物治療についてお伝えします。

【はじめに】 手術も、薬物治療も、著しく進歩
【図1】内視鏡手術器具(熊本大学病院)
左:内視鏡のモニターセット
右上:内視鏡の手術器具
右下:内視鏡のカメラセット

 整形外科というと、外科的な治療をイメージされる方が多いかと思います。確かに手術は整形外科治療の中心的なもので、大きな治療効果をもたらします。

 今日では、さまざまな部位で、内視鏡を使って体への負担を小さくする低侵襲(ていしんしゅう)手術が発展し(図1)、またCT画像などを用いた手術時のコンピューターナビゲーションシステム、ロボット支援手術など、画期的な技術が実際に臨床の現場に登場してきています。

 一方で、手術以外の治療法も大きく進歩してきています。

 薬物治療では、骨粗しょう症に新しい骨形成促進薬が、関節リウマチには強力な治療効果を有する薬剤が次々と開発され、処方できるようになりました。

 これら数あるトピックスの中でも、進展著しい整形外科の薬物治療について紹介します。


【骨粗しょう症と薬物治療】 寝たきりになるリスクがある「骨の病気」という自覚を
【図2】骨密度測定装置(熊本大学病院)

 骨粗しょう症とは、骨がもろくなり骨折しやすくなった状態のことをいいます。年をとると顔にシワがよるようなもの、と思っている方もいますが、それは違います。骨粗しょう症はれっきとした骨の病気です。骨密度を測定し(図2)、医学的な診断基準に従って診断され、保険診療で治療を行うものです。

 国内に約1280万人の患者がおり、女性に限らず、高齢者では最も罹患(りかん)率の高い疾患の一つです。放置しておくと、転倒などにより容易に骨折を起こし、寝たきりになるなどのリスクがあります。


骨量を増やす効果が高い皮下注射薬が新たに登場

 骨折を防ぐのに唯一しっかりとしたエビデンス(証拠・根拠)があるのが、骨粗しょう症の薬物治療です。

 さまざまな薬物がありますが、中でも昨年新たに登場した月に1回の皮下注射薬(骨形成を抑制するタンパク質に対する中和抗体製剤)は、減ってしまった骨の量を増やす効果が非常に高いことが特徴です。そのため、重症の骨粗しょう症の患者さんに使用されます。骨量が増えると、その分、骨折のリスクが減少します。


知っておきたい治療における決まり事

 この皮下注射薬は高い効果を発揮しますが、以下のような点に注意が必要です。他の薬剤に比べて1カ月あたりの値段が高い、1年間までという使用期限が設けられている(再開は可能)、心臓や脳の血管などに持病をお持ちの方には使用できない、投薬を終了すると増加した骨量が速やかに元に戻ってしまうので何らか別の薬で治療を継続する必要がある、などです。

 また、骨粗しょう症を発症するリスクとして多量の飲酒や喫煙、お酒を飲むと顔が赤くなる体質であること、などが分かってきています。主治医と相談しながら治療を受けられることをお勧めします。


【関節リウマチと薬物治療】 関節の腫れや痛みがあれば早期に受診を

 関節リウマチは手指などの関節炎と関節破壊を特徴とする慢性炎症性疾患で、放置すると関節の変形や機能障害を生じるため、早期の治療介入が必要です。

 従来は30〜40代の女性に多く発症する疾患というイメージでしたが、男性がかからないわけでもなく、最近では高齢発症の患者さんも増えてきています。関節の腫れや痛みが持続する場合は、受診をお勧めします。というのも、関節リウマチの治療のスタイルが以前とは大きく変わってきているからです。


炎症や関節破壊を抑える薬で 飛躍的な改善へ

 従来は、最初に弱い薬で治療を開始し、経過や薬物に対する反応を見ながら、少しずつ強い薬に切り替えていく、というやり方でした。しかし近年は、強力に炎症や関節破壊を抑えることができる薬剤が次々と開発されたことや、徐々に薬を変えていきながら経過を見ている間に関節破壊が不可逆的に進行してしまうこともあり、早期から積極的な治療を行う方針が取られるようになりました。

 強力に炎症や関節破壊を抑える薬として、モノクローナル抗体製剤などの生物学的製剤や、最近ではJak阻害剤という種類の薬が次々と臨床の現場に登場してきました。

 生物学的製剤は注射製剤で、Jak阻害剤は内服という違いがあります。いずれにしても、これらの製剤の登場で関節リウマチ患者の寛解(症状が落ち着き安定する)率は飛躍的に改善されました。


リスクや価格など主治医に確認、相談を

 一方で、強力な薬剤には有害事象への注意も必要です。生物学的製剤もJak阻害剤も強力に免疫を抑えることで薬効を発揮するので、感染症などにかかりやすくなります。間質性肺炎などの肺炎や、結核や肝炎などの再燃、特にJak阻害剤では帯状疱疹などに注意が必要です。

 また、Jak阻害剤は腎臓や肝臓などへの負担もあるので、これらの臓器に障害があると使用できないか、注意が必要です。

 これらの薬剤は価格が高いので、経済的な負担についても考慮が必要です。主治医の先生と相談しながら治療を受けることが重要です。


【終わりに】 早期に適切な診断・治療を

 骨粗しょう症については骨折が、関節リウマチでは関節の痛みや変形が心配されます。放置すれば日常生活動作やQOL(生活の質)が著しく損なわれるリスクがあります。

 早期から適切な診断や治療を受けることで、これらのリスクを回避することが可能になります。気になる方は診察を受けてみましょう。


執筆いただいたのは
熊本大学病院 整形外科
教授
宮本 健史
・日本整形外科学会専門医、指導医
・日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
・日本骨粗鬆症学会専門医
・日本リウマチ学会専門医、指導医
・日本リハビリテーション学会 認定医