すぱいすのページ

トップページすぱいすのページ「あれんじ」 2020年12月5日号 > 正しく知って、正しく予防 新型コロナウイルス感染症

「あれんじ」 2020年12月5日号

【元気の処方箋】
正しく知って、正しく予防 新型コロナウイルス感染症

 2020年、新型コロナウイルスの感染拡大が人々の暮らしを一変させました。今回は、このウイルスについて分かってきたことを踏まえ、新しい生活様式が求められる理由や、一人一人が心がけるべきこと、県内の医療体制などについてお伝えします。(編集=坂本ミオ)

【はじめに】次第に明らかになってきた新型コロナウイルス

 2020年初めより中国から世界中に広まった新型コロナウイルス感染症は、日本国内で感染者の発生が現在も続いています。流行当初から全国的な休校措置、緊急事態宣言の発出といった対策が行われ、私たちの生活は一変しました。

 未知のウイルスであり、感染予防の有効な対策がはっきりと分からず不安な状況が続きましたが、次第にさまざまなことが明らかになってきました。

 現在では科学的な事実を踏まえた「3密の回避」「新しい生活様式」の大切さが言われています。「新しい生活様式」には不便を感じることもあるかもしれません。そこで、なぜ新しい生活様式が大切なのかを解説したいと思います。


【新型コロナウイルス感染症の症状・感染経路】

●80%は無症状か軽い風邪症状で改善

 コロナウイルスは本来、私たちの身近に存在するウイルスです。一般的な風邪の10〜20%程度はコロナウイルスが原因と考えられています。今までに6種類が知られており、新型コロナウイルスは7種類目として明らかになりました。

 新型コロナウイルス感染症にかかっても80%の方は何も症状を来さない、もしくは軽い風邪症状(咳(せき)、倦怠(けんたい)感、微熱など)で改善します。残りの20%の方に入院治療が必要となる肺炎を発症し、5%の方が重症化に至ります。

 日本のこれまでの調査では、重症化する確率は60代以降で上昇し、感染者のうち70代で約10%、80代以降では約20%の方が亡くなられています。

●飛沫(ひまつ)感染と接触感染が主な感染経路

 新型コロナウイルスはヒトからヒトへうつります。主な感染経路は飛沫感染と接触感染です。咳やくしゃみ、会話などの際に口や鼻から飛び出した、人の目には見えないくらい小さな唾液や鼻汁(これを飛沫といいます)などにウイルスが含まれており、それが鼻や口、目から入り込むことにより感染するのが、飛沫感染です。

 接触感染はウイルスを含んだ飛沫が、机や手すり、ドアノブなどに付着し、そこに触れた手で目をこする、鼻をこするという形で感染することをいいます。


【助けられる命を助けるために】

●若い世代もしっかり対策を

 現役世代の方々が重症化することはほとんどない一方で、60代以上では重症化のリスクが著しく高くなります。身近な高齢者の方を守るためには若い世代の方々も対策をしっかり取ることが重要です。

 また、感染者が爆発的に増えた場合には、病院が感染者であふれ、適切な医療が提供されなくなる「医療崩壊」が起きる危険性があります。欧米では医療崩壊が起きて10%以上が亡くなった地域もあります。感染流行を緩やかに抑えることができていれば多くの命が助けられたと考えられています。

●感染予防が医療体制を守る

 熊本では、流行第1波の当初より、医療崩壊を防ぐために熊本県・市(行政)、県内医療機関、医師会、大学病院が一丸となり医療提供体制を形作ってきました。

 流行前は新型コロナウイルス感染者を受け入れることのできる病床は県内で40〜50床であったものが、現在では400床にまで増えています。また、各地域では感染者の重症度に応じて対応する医療機関も決まっており、県民が安心できるように適切な医療が提供できる体制が整っています。

 しかしながら、爆発的に流行が起こった場合には、各医療機関の負担はとても大きく、今までと同じように医療が受けられなくなる可能性がゼロではありません。そのような状態を防ぐためにも「新しい生活様式」による私たち皆での感染予防が大切なのです。


【将来的に期待できることは】

●開発中の治療薬とワクチン

 インターネットやテレビ、新聞などから新しい治療薬やワクチンの話が聞こえてきます。

 治療薬やワクチンは通常、数年から10年以上の歳月をかけて効果と副作用を確認した後に使用できるようになります。新型コロナウイルス感染症の場合は、通常より早いペースで開発が進められ、海外のメーカーが自社のワクチンの有効性が90%以上だったと発表したとのニュースも複数流れましたが、国内で使用可能となる時期は今のところ明らかではありません。

●正しい知識を持って共存へ

 将来的に治療薬やワクチンが使用できるようになっても、新型コロナウイルスを世界中から駆逐することは不可能と考えられます。風邪の原因となる他のウイルスや、インフルエンザウイルスといった感染症のように、私たちの社会の中で定着し共存していくことになるでしょう。その中で、私たちは過剰に恐れず正しい知識を持って共存の方法を探っていくことになります。新しい生活様式による感染予防は、その方法の一つなのです。


【「新しい生活様式」とは】〜新しい生活様式のコンセプトは「うつらない」と「うつさない」〜

◎「うつらない」ために、3密の回避を

 「うつらない」で重要な点は、密集・密接・密閉の3密の回避です。換気の悪い屋内(密閉)で一定の時間、お互いの距離が十分に取れないような環境(密集)で、多くの人と会話をする(密接)際には、飛沫感染に注意が必要です。

 3密の状況では、感染者に咳やくしゃみの症状がなくても、同席している人たちにうつるリスクがあります。飛沫は通常の会話では2m以上の距離まで届くことは少ないと考えられるためにソーシャルディスタンスとして2mが提唱されています。

 また、接触感染の予防にはせっけんでの小まめな手洗い、アルコール消毒が大切です。


◎「うつさない」ために、マスクの着用を

 「うつさない」での重要な点は、3密の回避に加え、マスクの着用になります。マスクを正しく着用することにより会話や咳、くしゃみの際の飛沫量を減らすことが分かっています。

 新型コロナウイルス感染症では、無症状者が大部分ですので、気付かないうちに感染を広げてしまうリスクがあります。

 また、新型コロナウイルスの他人への感染力が最大となるのは発症直前ですので、症状が出る前から感染を広げる可能性が高くなります。このことから、気になる症状がない場合でも、近距離で人と接する際には着用することが大切です。


執筆いただいたのは
熊本大学大学院生命科学研究部
呼吸器内科学講座
教授
坂上 拓郎

・日本内科学会 総合内科専門医・指導医・評議員
・日本呼吸器学会 呼吸器専門医・指導医・代議員・理事
・日本アレルギー学会 アレルギー専門医・指導医・代議員
・新型コロナウイルス感染症対策熊本県調整本部本部長
・熊本県・熊本市新型コロナウイルス感染症対策専門家会議委員