あれんじのページ

トップページあれんじのページ「あれんじ」 2020年2月1日号 > 自分らしく“生きる”ために―「終末期医療」を考える

「あれんじ」 2020年2月1日号

【元気の処方箋】
自分らしく“生きる”ために―「終末期医療」を考える

 「終活」という言葉が一般的になり、亡くなる前に準備をする人が増えています。その中で、医療や介護について自らの考えを整理したり、周りに要望を伝えたりはしているでしょうか。今回は、「終末期医療」について考えておきたいことをお伝えします。

【はじめに】「どう生きるのか」を考える終末期医療

 皆さんは終末期医療にどんな印象をお持ちでしょうか。もしかすると誤解があるかもしれません。

 まず「終末期」は、ひとくくりに定義できるものではありません。それは病気によって、また患者さんの状態や考え方によって異なるからです。亡くなった原因が老衰なのか、難病なのか、どの臓器のがんなのか、といったことを考えていただければ、理解しやすいかと思います。だから、「終末期はこの期間です」と単純に言うことはできません。

 次に伝えたいのは、基本的に医療とは「生きるためにある」こと。終末期医療も同じです。大事なのは、「こういう死に方をしたい」という思いを裏返し、「最期までどう生きるか」を考えることではないでしょうか。

 病気の状況に応じて、どのような治療を受けるのか。治療が困難だと説明を受けたとき、生命維持に影響する医療行為についてどう意思表明(リビング・ウィル=図1)を行うのかも、自分が自分の人生の主役であるための大事な判断だと思います。

 そして医療は、その意思に基づいて、その人がその人らしく生きるために施される。それが終末期医療だと考えています。


【「人生会議」とは】自らが望む医療・ケアについて考え、話し合い、共有を

 厚生労働省が作成したポスターが物議を醸したことで名前を知られるようになった「人生会議」。これは、もしものときのために、自らが望む医療やケアについて前もって考え、家族など信頼できる周囲の人たちや医療従事者らと話し合い、共有する取り組みである「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の愛称です。

 私たちは熊本地震の際に「まさか」という経験をしました。自然災害でなくとも、今や二人に一人ががんになるといわれる時代となり、自分もがんと診断される「まさか」の事態も起こり得るのです。

 「人生会議」の取り組み方はその人の状態によって変わってきます。健康な人は、自分の考えや価値観を自分の代わりに表明できる代理意思決定者を選び、その人と話し合ってみませんか。人生の最終段階を考える時期にある人は、医療従事者の意見も参考に医療・ケアの見通しについて話し合うことをお勧めします。


正しい情報と時間が必要 家族や医療者と話し合いを
【図1】リビング・ウイルの書式例
参考:公益財団法人 全日本病院協会「終末期医療に関するガイドライン」終末期医療書式

【図2】話し合いの進め方(例)
※参考:厚生労働省 ACP普及・啓発リーフレット

 誤解してほしくないのは、「人生会議」は、本人の生き方や価値観を共有することが目的であり、治療やケアの選択をその人任せにすることではありません。

 家族とも普段からそういう話をし、かかりつけ医や看護師から正しい情報を得ておかないと、「まさか」の時に考えることはなかなかできません。さまざまな判断をするには、正しい情報と時間が必要です。そこで、図2のような話し合いの取り組み方が勧められています。

 自分で判断できなくなった場合のことも話し合っておきましょう。自分の意思表明を代わりにしてくれる代理意思決定者を考え、できれば文書で残しておくと安心です(図1)。

 また自分の健康状態が変わったときに、改めて話し合いを繰り返す過程を大事にしてください。

 そういう行動が、自らの人生の質を高めるとともに、家族など信頼できる周囲の人たちの気持ちにも安心感をもたらすのではないでしょうか。


[終末期医療における意思表示(リビング・ウイル)]

私は、下記の医療行為について、以下のように希望します。なお、この希望はいつでも撤回し、または変更することができます。撤回、変更は、同様の書面、あるいは時間的な猶予がない場合には口頭で行います。

@輸液          ⑴希望する ⑵希望しない ⑶わからない  
A中心静脈栄養      ⑴希望する ⑵希望しない ⑶わからない
B経管栄養(胃ろうを含む)⑴希望する ⑵希望しない ⑶わからない
C昇圧剤の投与      ⑴希望する ⑵希望しない ⑶わからない
D(心肺停止時の)蘇生術 ⑴希望する ⑵希望しない ⑶わからない
E人工呼吸器       ⑴希望する ⑵希望しない ⑶わからない
Fその他 (具体的に:                    )

このほかの事柄については、以下の方を代弁者(代理人)として、
その方の判断に委ねます。

代弁者氏名(続柄) 
  年  月  日
氏名

参考:公益財団法人 全日本病院協会「終末期医療に関するガイドライン」終末期医療書式


【メッセージ】医療者が適切に介入 安心を

 「終末期の全てを自分で決めないといけない」なんて考えると、重すぎますよね。そうではありません。本人が考え、表明するのは、あくまで医療に対する自分の考え、価値についてです。それを受けて、医療者が適切な方法を取るのです。安心してください。


【「緩和ケア」とは】診断されたときから始まる 緩和ケア=末期ではない

 医療従事者は命を助けることと共に、命の質を上げることに力を尽くしています。

 「緩和ケア」は、命の質を上げる取り組みといえます。日本緩和医療学会は緩和ケアを、「重い病を抱える患者やその家族一人一人の身体や心などのさまざまなつらさを和らげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア」と定義しています。

 また、「緩和ケア=末期」ではありません。がんなど重い病気と診断されたその時から始めるべき医療・ケアです。

 体の痛みや苦痛、気持ちのつらさに加え、治療費や療養費、日常生活の支援、仕事や家族への影響など経済的社会的にさまざまな不安があります。それらに応えるために、緩和ケアでは早期から多職種がメンバーとなるチーム医療で関わります。

 がん診療連携拠点病院をはじめ多くの病院に緩和ケアの相談窓口が整備されつつあります。どうしても相談窓口が分からない場合は下記にご相談ください。

◎緩和ケアに関するお問い合わせ
熊本大学病院緩和ケアセンター
TEL:096-373-5637

◎がん全般に関するお問い合わせ
熊本大学病院がん相談支援センター
TEL:096-373-5676

(いずれも平日9時〜17時)


【終わりに】人生の主役はあなた自身

 国が「人生会議」を勧めるのはなぜかと言えば、自分の人生の主役はあなた自身であることをもう一度考えてほしいからではないでしょうか。終末期に自分の命を他人任せにしないように、と。

 とはいえ、これだけの長寿社会になると、終末期の生活を医療や介護と切り離すことはできません。そこで、最期までどう生きたいのかを話し合い、できれば意思を記録し、家族や医療従事者などに伝えることが推奨されているのです。

 保険やお墓選びなどの終活ももちろん大事ですが、「どう生きるのか」を考え、周りと共有しておくことを大切にしてください。


話を聞いたのは

熊本大学病院
緩和ケアセンター
吉武 淳 客員教授

・日本麻酔科学会 麻酔科指導医・専門医
・日本緩和医療学会 緩和医療専門医
・医学博士