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「あれんじ」 2020年1月11日号

【元気!の処方箋】
婦人科がんと遺伝子検査 遺伝性乳がん・卵巣がん

 ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーの乳房切除のニュースで広く知られることになった「遺伝性がん」。今回は、婦人科の遺伝性疾患の中で最も頻度が高い「遺伝性乳がん卵巣がん」について、検査やカウンセリング含めてお伝えします。(編集=坂本ミオ)

【はじめに】がん全体の5〜10%程度を占める「遺伝性がん」
【図1】それぞれのがん腫における遺伝性がんの割合

 今や日本人の2人に1人はがんになる時代です。現在、日本では年間約100万人ががんと診断され、そのうち35万人以上ががんで亡くなっています。

 一般にがんの発症には、食生活や飲酒、喫煙などの生活習慣に加え、ウイルス感染や紫外線などさまざまな環境要因が関与しています。一方で、遺伝的な要因に基づいて親から子に遺伝する「遺伝性がん」の存在が古くから知られており、これはがん全体の5〜10%程度を占めています(図1)。

 これまでにさまざまな種類の遺伝性がんが発見されてきましたが、女性の生殖臓器に関わる代表的なものとして、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)があります。遺伝性乳がん卵巣がんという場合、既に発症した患者さんだけでなく、未発症の方も含みます。

 2013年5月14日のニューヨーク・タイムズ紙にハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリー氏の寄稿「私の医学的選択 my medical choice」が掲載されました。彼女は自身が遺伝性乳がん卵巣がんであることを告白し、予防的に両側乳房の切除を受けたことを公表しました。このニュースは日本でも大々的に報道され、遺伝性乳がん卵巣がんは社会的に広く知られるようになりました。


【「遺伝性乳がん卵巣がん」とは?】
【図2】常染色体優性遺伝形式の家系図の特徴

 乳がんや卵巣がんが複数見られる家系について詳細な調査が行われた結果、乳がんや卵巣がんの発症と密接に関わる2種類の遺伝子が発見され、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子と名付けられました。

 遺伝性乳がん卵巣がんは、BRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子の変異に関連した遺伝性疾患であり、家系内に乳がん、卵巣がんの発症が多く見られます。日本人におけるBRCA遺伝子変異を有する頻度は分かっていませんが、欧米での大規模調査では400〜500人に1人の割合と推定されています。

 本疾患は常染色体優性遺伝という遺伝様式をとりますが、これは性別にかかわらず、50%の確率で次の世代へと遺伝子変異が受け継がれていきます(図2)。

 日本人女性が生涯のうちに乳がんを発症するリスクは8%、卵巣がんは1%とされていますが、遺伝性乳がん卵巣がんの場合、乳がんは40〜90%、卵巣がんは20〜50%と高率になります。一方で、BRCA遺伝子に変異がみられる男性では、前立腺がんや男性乳がん、膵臓がんなどを発症しやすいことが報告されています。


【どのような人に遺伝性乳がん 卵巣がんのリスクがあるのか?】

 日本HBOCコンソーシアムは、遺伝性乳がん卵巣がんのリスクについて、以下のようなチェックリストを作成しています。

【患者向け問診票「かんたんチェック」】

 母方、父方それぞれの家系について、あなた自身を含めたご家族の中に該当する方がいる場合に、□にチェックをいれてください。

□ 40歳未満で乳がんを発症した方がいますか?
□ 年齢を問わず、卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)の方がいますか?
□ ご家族の中でお1人の方が年齢を問わず、両側あるいは片側の複数箇所に乳がんが見られた方がいますか?
□ 男性の方で乳がんを発症した方がいますか?
□ ご家族の中でご本人を含め、乳がんを発症した方が3人以上いますか?
□ トリプルネガティブの乳がんといわれた方がいますか?
□ BRCAの遺伝子変異が確認された方がいますか?

 これらの質問に一つでも該当する項目がある場合には、遺伝性乳がん卵巣がんである恐れがあるため、乳腺外科や産婦人科の担当医にご相談ください。


【「BRCA遺伝学的検査」と 「遺伝カウンセリング」とは?】

 遺伝性乳がん卵巣がんの診断のためにBRCA1遺伝子あるいはBRCA2遺伝子に変異があるかどうかを調べる検査は、「BRCA遺伝学的検査」と呼ばれ、遺伝子変異の有無を血液検査で判定できます。検査によって遺伝性乳がん卵巣がんと診断された場合、その結果はご本人のみならずその血縁者にも影響がおよぶことから、専門医による「遺伝カウンセリング」を受けることをお勧めしています。

 遺伝カウンセリングでは、ご本人の既往歴や家族歴などについて詳細な問診を行うことで、関連するがんの発症についてそのリスクを評価します。そして、遺伝や医学的な影響に関する正確な情報を提供するとともに、ご本人やその家族を含めた心理的社会的なサポートを行います。

 その後、担当主治医と連携しながら、がんを発症しやすい臓器を中心に定期的な検診を行い、予防や早期発見に努めます。ご本人の遺伝学的背景を十分に考慮した上で、将来の乳がん、あるいは卵巣がんの発症を予防する目的で乳房あるいは卵巣・卵管の切除を検討する場合もあります。


【おわりに】 複数の診療科や部門、職種の連携が重要

 遺伝性乳がん卵巣がんの確定診断のためのBRCA遺伝学的検査は、最近では卵巣がんの治療法の決定にも影響する検査として非常に重要な役割を担うようになってきました。

 遺伝性乳がん卵巣がんを含めた遺伝性がんに対する診療は、複数の診療科や部門、専門の職種による全面的な連携、協力が重要であり、そのような診療体制の構築が急速に進められています。

 遺伝性がんに関する相談はまず、かかりつけの乳腺外科や産婦人科の担当医、あるいは熊本県内であれば熊本大学病院のがん相談支援センターにご連絡ください。遺伝子検査や遺伝カウンセリングを受けられる医療機関は、「全国遺伝子医療部門連絡会議」のホームページから検索できます。


執筆いただいたのは

熊本大学大学院生命科学研究部
産科婦人科学講座 
講師
本原 剛志

・日本産科婦人科学会専門医
・日本婦人科腫瘍学会婦人科
腫瘍専門医
・日本がん治療認定機構がん
治療認定医