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「あれんじ」 2010年10月2日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第7回】 心へのメス(?)という挑戦

女性医療従事者によるリレーエッセー 慈愛の心 医心伝心 【第七回】

【第7回】 心へのメス(?)という挑戦
熊本赤十字病院 
脳神経外科 
医師 工藤 真励奈

 外科医は一人前になるのに10年以上かかると言われますが、脳外科医として10数年、ようやく中堅の仲間入りをしたところでしょうか。脳外科女医は現在熊本県には3人しかいないので、「先生が手術すると? 脳を切ると?」と目をむかれることも多いのですが、それにも慣れました。
 脳外科という科の特性上、夜中の急変や緊急手術も少なくなく、女性が職業として選びにくいことが、脳外科女医が珍しい理由の一つと思います。そのためか、よほど高い志を持って脳外科を選んだのではと思われがちなのですが、大して考えがあった訳ではありません。祖父母が脳卒中になったのを目の当たりにし、祖父母の病気への興味、そして願わくば「仇討ちを」という気持ちが捨てられなかっただけなのです。
 経験を積むにつれある程度「仇討ち」ができる機会も増えましたが、現代の医学では一度死んだ脳を生き返らせることはできず、医療の限界を感じることも多々あります。それでも毎日新鮮な驚きがあり、何より昏睡状態の患者さんに、術後人間らしい表情が出てくるのをみると、心は脳にあること、その脳にじかに触れ治療を行えることの醍醐味を感じます。一方で、重い脳卒中では手術で救命できないこともあり、その際にご家族の死生観をうかがい、そしてその方の一生に思いを馳せる時、いつもどこか考えさせられるものがあります。
 これからも「脳=心」を大切にして、患者さんに教えられながら日々精進していければと思っています。