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「あれんじ」 2019年6月1日号

【慈愛の心 医心伝心】
第78回「魔法のくすり」

女性医療従事者によるリレーエッセー【第78回】

第78回「魔法のくすり」
みらい小児科クリニック
院長
武藤 未来

 「AMR(薬剤耐性)アクションプラン」をご存じでしょうか? 今、世界中で、抗菌薬が効かない細菌(耐性菌)が問題になっています。年間70万人が亡くなり、「ヒトは新たなウイルス感染症ではなく、耐性菌で命を失う時代が来る」とWHO(世界保健機関)は警鐘を鳴らしています。

 1928年、ペニシリンの発見で、多くの人が命を落とした細菌感染症の治療が可能になりました。抗菌薬はまさに「魔法の薬」でした。

 しかし、細菌はとても賢く、生命力が強く、自分の遺伝子を変化させ耐性を獲得し続けました。人間がいくら知恵を絞って新薬を開発しても、新たな耐性菌が現れ、いたちごっこ状態。ついには、たった90年弱で「多剤耐性菌」が出現したのです。

 そんな耐性菌を減らすための具体的な行動計画が「AMRアクションプラン」で、日本からも2016年、「2020年までに@全体の抗菌薬使用量を33%減らすA内服抗菌薬では50%減らす」と発表されました。

 私たちの目標は抗菌薬を正しく使い、将来の子どもたちに有効な抗菌薬を残すこと。そのために@ウイルスの風邪に抗菌薬は効かないA処方された抗菌薬は指示通り内服をB残った抗菌薬を「とりあえず」内服するのはやめるC風邪の予防に手洗い・うがいをDワクチンを接種して、感染症を予防する―の5つをご理解ください。

 小さな一歩かもしれませんが、大きな力につながりますように。そう祈りながら日々の診療にあたっています。

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 「わたしにはマフラーを、ママにはおこらないおくすりをください」

 次女が5歳の時に書いた、サンタさんへの手紙です。そんな「魔法のくすり」をどなたか私にくださいませんか?