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「あれんじ」 2010年4月3日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第一回】 あれから三十年・・・

女性医療従事者によるリレーエッセー 慈愛の心 医心伝心 【第一回】

あれから三十年・・・
天野整形外科
あまの皮ふ科医院
副院長 天野 冨紀子

 綾小路きみまろ氏の漫談ではありませんが、当時、私は卒業したばかりで、皮膚科医としての目標も定まらず、ふわふわと過ごしていました。熱血漢のI先生の診察の助手についた時に、顔に紫色のあざのある女性の患者さんがみえました。手術を受けていましたが、とてもお気の毒な状態で、どう言葉かけをしたものか迷っていました。I先生は顔を見るなり、「きれいになったね! 前より良くなったよ。少しずつ頑張ろうね!」と、励まされました。患者さんも次第に明るい表情になり、病気と闘う気力を取り戻して帰られました。
 皮膚の病は目に見える分、残酷です。大切なのは患者さんに「寄り添う気持ちを持つこと」、そもそも医療の原点である「手当てする」とは「患部に 直接 手を当てて 診ること」だと、教えられました。無意識でも患者さんに傲慢(ごうまん)に見える態度を取ると厳しく叱られました。
 恩師のO先生が『人の魂は皮膚にあるのか』のタイトルの本を上梓(じょうし)されましたが、まさに皮膚科医の叫びだと思います。また先生は、私が幼い子ども二人を抱えての仕事に迷っていた時、「子どもは食べさしてさえおけば育っていくよ!」と声をかけてくださいました。その言葉を聞いた途端に、意地を張っていた心が軽くなりました。
 あれから三十年、悪妻愚母を続けながら、まだ仕事をしています。