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「あれんじ」 2019年6月1日号

【元気!の処方箋】
気を付けたい!中高年の“お口” の健康

 口の中の健康というと、歯を思い浮かべがちです。しかし中高年になると、口の中全般に気を付けたいことが増えてきます。

 そこで今回は、口の中で注意したい疾患についてお伝えします。(取材・文=坂本ミオ)

【Q1】「口腔外科」とは、どんな診療分野ですか?
【口腔外科が関わる主な領域】

◎口の健康を守る「お口の門番」

 口腔とは口の中を指します。 私たちが生きていくのに欠かせない「食べる」という行為は、大きな楽しみでもあります。その際、かみ、のみ込み、味わうわけですが、それは口の中だけで行えるものではありません。歯を動かし、かみ砕くのは顎です。

 歯や歯茎、舌、頬の内側の粘膜などがある口腔と、顎、顔面とその隣接組織に現れる疾患を扱うのが口腔外科です。それは、生命の基礎であり生活の楽しみである「食べること」を邪魔する口の中や顎の病気と闘うこと。だから、私たちは口の健康を守る「お口の門番です」とお伝えしています。

◎機能と見かけ両方に関わる

 また、口腔外科は、機能と見かけの両方に関わることが多いのが特徴です。

 例えば顎変形症など骨格性の咬合(こうごう=かみ合わせ)異常によって、上顎や下顎に極端な後退や前突があれば、適正なそしゃく(かみ砕くこと)が困難となり、見かけ上の問題も生じます。

 そしゃくは脳の刺激につながりますし、口の中の筋肉の働きが衰え、のみ込みの力が落ちると誤嚥性肺炎の危険性が増します。このように口腔外科では、中高年にとって切実な問題を数多く取り扱います。


【Q2】骨粗しょう症の薬との関係が言われる「顎骨壊死(がっこつえし)」について教えてください

◎薬剤との関係に多い誤解

 顎骨壊死は感染が引き金となって発症し、歯茎の下の骨が露出したり、歯茎が腫れたり、膿が出たりします。骨が腐敗し、匂いも発生します。腐骨(ふこつ)がぽろりと自然に分離して取れることもありますし、その前に削る治療法もあります。

 この顎骨壊死については薬剤の影響が知られていますが、誤解も多いと感じています。

 骨粗しょう症や骨転移のあるがんの治療に有効な薬に、ビスフォスフォネート剤などの骨吸収抑制薬があります。この薬を使用中の方が抜歯などの歯科治療を受けた後に顎骨壊死を生じることがあります。歯科治療を原因と考えがちですが、それは正しい理解ではありません。抜歯に至るまでの局所の感染や炎症により、すでに顎骨壊死が起こり始めていた可能性があります。つまり、良くない歯に関連した局所の炎症が顎骨壊死を引き起こすのです。

◎ まず口腔衛生状態を良好に

 骨吸収抑制薬は、がんの骨転移がある人、骨粗しょう症が進行している人には絶対必要な薬です。

 例えば骨粗しょう症の人が、顎骨壊死が怖いからと勝手に薬を止めてしまうようなことがあれば、大腿骨の骨折などが起き寝たきりになることも考えられます。すると生活の質は落ち、生存率が下がる結果を招いてしまいます。

 大事なのは、骨吸収抑制薬を服用することになったら、服用を始める前に歯科医院で必要な治療を受け、口腔衛生状態を良好にしておくことです。

◎ 医師、歯科医師、薬剤師が共通認識を

 骨吸収抑制薬を服用中に抜歯などの歯科治療をするときには骨吸収抑制薬を一時中止することが望ましい、と言われてきましたが、最近のデータから、これも特に必要がないことが分かってきました。

 これらについては、医師、歯科医師、薬剤師が共通認識を持つ必要があります。熊本県内では、その上で患者さんに正確な情報を伝えるための取り組みを行う予定です。

 重度の骨粗しょう症や骨転移のあるがんに対しては、骨吸収抑制薬による治療が優先されることが患者さんの利益につながるのです。


【Q3】口の中のがんについて教えてください
【図】初期口腔がんとレッド ホワイト リボン
お口の中に、周りに比べて『白い』『赤い』部分があるときには注意が必要

◎ 舌の縁の「赤」と「白」に注意

 口の中にできるがんを「口腔がん」といいます。中で最も多いのは「舌がん」です。

 口腔がん啓発活動のシンボルは「レッド&ホワイトリボン」です。なぜかといえば、舌の縁に見られる「赤」い部分や「白」い部分は、舌がんの初期のサインだからです(下図参照)。つまり、鏡の前で舌を出して自分でチェックができるのです。

 また、セルフチェックリストもあります(右下参照)。当てはまるものがあればぜひ歯科医院に相談してください。特に、「口内炎が2週間たっても治らない」のは、必ず受診してほしいケースです。


【口腔がんセルフチェックリスト】

□ お口の粘膜に消えない白い部分がある
□ 口内炎が2週間たっても治らない
□ 口内炎が出血しやすい
□ 口臭が強くなった
□ お口が開けにくくなった
□ 飲み込みにくくなった
□ 首にしこりができた

当てはまるものがあれば、ぜひ歯科医院に相談を!


◎ 口内炎は歯科医院を受診

 「口内炎の治療は何科に行けばいいのか迷う」という声も聞きます。舌がんの危険性を考えれば、歯科に相談に行ってほしいと思います。熊本県の場合、県歯科医師会に所属する歯科医師が診断に迷うような場合は、熊大病院にお口の写真を送ってもらうようにしています。写真を見て悪性が疑われる場合はその旨伝え、熊大病院に来てもらい、初診当日に病理組織検査を行う取り組みを行っています。

 早期診断ができれば小さな範囲の切除で済み、その後の生活の質を落とさないことにつながります。


【メモ】最近よく聞く「ドライマウス」とは?

◎虫歯や歯周病、そしゃくや嚥下(えんげ)に影響
 唾液による口の中の潤いが低下する「口腔乾燥症」のことです。舌が赤く平らになったり、口角があかぎれし、そこに真菌が棲(す)み着くこともあります。
 唾液の減少によって口の中の自浄作用が落ち、右のような症状が起きます。
◎虫歯ができやすくなる
◎歯周病が進行しやすい
◎口臭がしやすい
◎傷の治りが遅くなる
◎そしゃくと嚥下(飲み込み)がしにくくなる


◎原因には薬の副作用や女性ホルモンの減少なども

 診断ではまず、診断方法が確立しているシェーグレン症候群かどうかを確認します。

 これを除外した上で考えられる原因として、さまざまな薬の副作用、女性ホルモンの減少に伴う更年期障害、糖尿病などの疾患が考えられます。

 多くの種類の薬を飲めば、それぞれの副作用は小さくても重なることで影響が大きくなる場合もあります。

 保湿剤の塗布や唾液腺のマッサージなどとともに、医師に相談の上、減らせる薬があれば減らすことも一つの改善策といえます。


話を聞いたのは

熊本大学大学院生命科学研究部
歯科口腔外科学分野
中山 秀樹 教授

・日本口腔外科学会専門医・指導医
・日本口腔科学会認定医・指導医
・日本がん治療認定医機構暫定教育医・がん治療認定医(歯科口腔外科)
・日本口腔腫瘍学会暫定口腔がん指導医
・日本顎関節学会暫定指導医
・臨床研修指導歯科医師