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「あれんじ」 2019年5月11日号

【元気!の処方箋】
この時季は“春バテ”に注意 若者のメンタルヘルス

 新年度がスタートしてひと月余り。緊張から疲れが出たり、連休もあってリズムを崩したり、といったことが起きがちです。そこで今回は、心身に不調を来す原因や治療、予防、周りが気を付けたいことなどをお伝えします。

【はじめに】精神的な不調を来しやすい20歳前後

 新年度は環境が変わりやすい季節です。環境の変化はさまざまな形でわれわれのメンタルヘルスに影響を及ぼします。人は常々ストレスにさらされて生活しているわけですが、20歳前後の年齢層がメンタルヘルス不調を来しやすいことは昔から指摘されていました。

 2013年〜15年にかけて行われた世界精神保健日本調査セカンド(精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究、川上憲人ら 2016)でも、20〜34歳の年齢層では28・1%の人が「いずれかの精神障害」(国際疾病分類第10版)に該当し、他の年齢層に比べ最も高い有病率を示していました。


【この時季多い心身の不調】”春バテ”は、医学的には適応障害
【表】適応障害の判断基準
※米国精神医学会による精神疾患の分類と診断の手引 第5版を一部改変

 新生活への期待や高揚感が落ち着いてくるゴールデンウイークを過ぎた頃から出てくるさまざまな心身の不調、それがいわゆる「五月病」です。最近では”春バテ”とも言うようで、これらの症状を医学的に診断すると適応障害という診断名になります。

 適応障害はストレス関連障害の一つで、個人が環境にうまく適応できていないときに出てくる情緒的反応です。不安、抑うつ、イライラが代表的な症状で、ストレス因子の始まりから3カ月以内の発症が多いとされています(表参照)。

 ストレス因子としては、経済的問題、人間関係の問題、身体疾患など身の周りのさまざまな事柄が挙げられます。適応障害がこじれてうつ病になってしまうこともあれば、逆にうつ病からの回復過程として適応障害を経て良くなっていく場合もあります。


【適応障害の治療】こじらせないために対症療法や環境調整を

 適応障害を経験しないに越したことはないのかもしれませんが、病院受診にまでは至らない程度の不適応というのは多くの人が経験するところでしょう。むしろ人はそういった経験を経てアイデンティティーというものを形成していくのかもしれません。肝心なのは、適応障害をこじらせないことです。

 適応障害の治療としては、食欲不振であれば胃薬、寝付きが悪くなっていれば軽い睡眠導入剤、イライラが強ければ向精神薬といったように症状に応じた投薬を行います。ただし、これらはあくまで対症療法であり、根本的な治療ではありません。個人のストレス耐性を強化するやり方(カウンセリングなど)もありますが、当然ながら時間はかかります。

 そこで、最も効果的なのが環境調整です。例えば学生ならカリキュラムや評価方法の見直し、保健室の利用など。社会人ではそれに加えて、職場環境の調整、異動、業務分担の見直しなどが考えられます。学生、社会人を問わず、場合によっては入院も即効性のある環境調整です。

 環境要因にはさまざまな事柄が含まれ、治療場面でも可能な範囲で調整を行います。


【メンタルヘルスにかかわる睡眠】症状の改善につながる良い睡眠リズム
【メモ】睡眠障害対処12の指針
※睡眠障害の対応と治療ガイドライン(内山真 編集)より

 一方、多くのメンタルヘルスの不調に共通してみられるのが睡眠障害です。入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、睡眠時無呼吸など、その内容はさまざまですが、注意したいのは、さえない気分、日中の疲労感、集中力の乏しさなど、一見するとうつっぽく見える場合もあるということです。

 しかしながら、睡眠衛生の指導と睡眠日誌によるモニタリングを行うことで(うつ病の治療をすることなく)、症状が改善することはよく経験するところです。

 睡眠リズムの改善のコツは「早起き」と「昼寝をしない」です。寝不足でも頑張って起床し、カーテンを開けて日光を浴び、胃に食物を入れて、体内時計をスイッチONにします。日中眠くても極力昼寝をしなければ自然と夜に眠くなるというわけです。

 夜間の睡眠だけを切り取るのではなく、睡眠を1日全体のリズムとして捉えるのが大事です。睡眠導入剤には限界があり、あくまで補助的な治療です。また、アルコールは睡眠の質を落としますので、飲酒可能な年齢の人であっても、いわゆる寝酒は勧められません(メモ参照)。


【“春バテ”の予防と対応】普段と違った様子が続いていないか?

 “春バテ”の予防としては、規則正しい生活(睡眠と食事)を心掛け、自分なりのストレス解消法を見つけることです。場合によっては周囲が環境調整の手伝いをしてあげることも必要かもしれません。

 周りが気を付けることとしては、普段の言動と違った様子が続いていないか、睡眠リズムが乱れて昼夜逆転していないか、食欲が落ちていないかなどが挙げられます。言うまでもありませんが、そのような変化に気付くためには普段からある程度コミュニケーションをとっておくというのが前提になります。

 気を使うあまり腫れ物に触るような状況になっても問題ですから、周りから見て心配であれば率直に本人に尋ねてみるのもいいでしょう。適応障害レベルであれば、できるだけ本人の主体性を尊重しながら環境調整を図ることになりますし、残念ながらうつ病まで進展した場合は、一時的に考え方がネガティブになっていることも多いので、「学校・仕事を辞める」「離婚する」などの重大な決断は先延ばしにして回復を待つというのが原則です。


【終わりに】普段からのコミュニケーションを

 同じうつ状態でも適応障害レベルなのかうつ病なのかの見極めが、治療場面では重要になってきます。

 以前、「うつは心の風邪」といったキャンペーンが展開されたこともありましたが、「風邪は万病の元」とも言います。“春バテ”をこじらせることのないよう、できるだけ普段からのコミュニケーションを心掛けましょう。


執筆いただいたのは
熊本大学保健センター
藤瀬 昇 教授

・精神保健指定医
・日本精神神経学会専門医
・日本老年精神医学会専門医
・日本自殺予防学会評議員
・日本森田療法学会理事
・全国大学保健管理協会評議員