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「あれんじ」 2019年4月6日号

【元気!の処方箋】
何をするの?どうすればいい? 骨髄移植とドナー登録

 有名アスリートの白血病罹患発表に人々の関心が集まった骨髄移植とドナー登録。詳しいことが分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、骨髄移植やそのためのドナー登録、骨髄提供の流れなどをお伝えします。

【はじめに】
【図1】血液のつくられ方
 血液中には白血球、赤血球、および血小板の3種類の血球が流れています。これらの血球は、骨の中にある骨髄でつくられています。骨髄には「造血幹細胞」と呼ばれる万能の血液細胞があり、すべての血球を生み出しています。

 1958年、旧ユーゴスラビアの原子力事故をきっかけに、骨髄移植は脚光を浴びることになりました。当初は失敗続きでしたが、現在ではなくてはならない治療法となっています。

 これを説明するにあたり、まず血液がどうやってつくられるかをお伝えします。


【白血病と骨髄移植】
【図2】骨髄(造血幹細胞)移植
@抗がん剤・放射線で白血病細胞を殺す
A造血幹細胞を移植し治癒に向かう

 白血病はこの造血幹細胞ががん化することで発症します。白血病を治すためには、抗がん剤でこの白血病細胞を一網打尽にして消滅させます。

 しかし白血病細胞が残り続ける場合には、大量の抗がん剤や放射線で白血病細胞とともに正常血球もなくしてしまい、代わりに他人の正常幹細胞を「移植」し血液を置き換えます(図2)。正常血球をなくすのは、提供された血液に、より置き換わりやすくするためです。

 造血幹細胞を含んだ骨髄液を移植することを骨髄移植と言い、骨髄液を提供してくださる方をドナーと呼びます。


【骨髄移植にはドナーが必要】

 前提条件として、ドナーと患者の血液の型を合わせる必要があります。この場合の型はA型、などの血液型ではなく白血球の型「HLA」です。このHLAは自分と他人を区別する目印であり数百〜数万ものバリエーションがあります。HLAのおかげで人体は異物を認識し、攻撃し排除して体を守ることができます。

 移植の場合には、患者とドナーの血球が、お互いを異物と認識しないようにHLAを合わせる必要があります。HLAが合う確率はきょうだいで25%、親子では数%、それ以上離れると確率は数百分の1〜数万分の1と極端に下がってしまうため、個人的にドナーを探すことは不可能となってしまいます。 さらに進行すると、濁りは極めて強くなり、失明状態に近くなります。ここまで進行すると手術の難易度が上がります。手術時間が長くなり、合併症の確率も上がってしまうので、その前に手術を行う方が良いと考えます。

◎骨髄バンク

 このような背景のもと、1991(平成3)年に「日本骨髄バンク」が組織されました(https://www.jmdp.or.jp/)。

 多くの人々の善意により年々発展し、2018年末時点のドナー登録者数は約49万人となりました。登録数が増えるにつれHLAを適合できる確率も94.9%と飛躍的に上昇し、骨髄バンクを介した移植数は昨年2万2600例を超えました。


【骨髄(骨髄液)提供の流れ】
【図3】骨髄(骨髄液)提供までの流れ
改変転載 https://www.jmdp.or.jp/

 実際の骨髄提供の手順をご紹介します(図3)。

@登録から自己血採取まで

 登録は赤十字血液センターなどでHLAを調べるための血液2㎖の採血から始まります。HLAが適合し、ドナー候補者になると骨髄バンク関連施設(県内では熊本赤十字病院、熊本大学、熊本医療センター)で説明を受けたうえで、健康状態などの問診、採血検査が行われます(確認検査)。

 検査結果がドナーとして健康上問題がなく、提供依頼が行われた場合には、ご家族の同席の上で、実際の骨髄液の採取手順や合併症の説明があり、同意を確認します(最終同意)。
 その後、採血、レントゲン、心電図など骨髄採取手術に向けた術前検査を行い採取計画が立てられます。

 採取する骨髄液の量は、患者さんの体重により200㎖から最大1200㎖までありますが、ドナーの体重により安全な範囲で設定されます。また採取量が400㎖以上の場合には、採取量を失血量とみなして、その量が400㎖以内に収まるような処置を受けます。つまり、術前2〜4週の間にあらかじめ自己血が採血・保存され、骨髄採取当日に輸血として戻されます。


A採取から退院まで
【図4】骨髄採取
全身麻酔下で両方の腰骨(右図)から骨髄を注射器で採取しています

 採取は入院で行います。熊本医療センターでは水曜日に入院、翌朝手術室に入り全身麻酔で両側の腰骨から注射器で骨髄液を採取します(図4)。

 注射痕は通常左右2カ所ずつ程度、手術時間は2〜3時間で昼までには自室に戻り、夕方からは食事も開始となります。手術翌日は一日様子を観察し、問題なければ手術2日目の土曜日に退院となります。

 ほとんどの場合、翌週月曜日から通常生活に戻ります。骨髄は採取後すみやかに元の状態に戻り、その間も日常生活に支障はありません。


B骨髄移植へ

 採取された骨髄液はその日のうちに患者さんの入院している病院に送られ、移植が行われます。移植と名がついていますが、輸血のように点滴で輸注されます。造血幹細胞は血流に乗って速やかに患者さんの骨髄に移り住み、患者さんの一部となって血液をつくり始めます。

 同時に、残っている白血病細胞が出てこないように、にらみを利かせ再発を防いでくれます。

【MEMO】
 骨髄バンクに登録した場合、最終的にドナーとして提供する確率は50人に1人程度です。万が一のためにドナー保険に入っていただいています。また、提供ドナーへ助成を行っている自治体もあり、熊本県では宇土市で行われています。


骨髄移植以外の移植
【図5】末梢血幹細胞採取
(左)連続的に採血し器械にかけて幹細胞を採取しています
(右)採取された末梢血幹細胞

 造血幹細胞は最初に骨髄で見つかりましたが、その後全身に流れている血液(末梢血)中にも含まれることが分かりました。

 この末梢血幹細胞の量は通常はごくわずかですが、白血球を増やす薬(GーCSF)を注射すると、末梢血中に増えてきます。これを血球分離機で集めて(図5)移植します。

 骨髄バンクでは2010年から末梢血幹細胞の提供もできるようになり、昨年末に累計600例に達しました。

 また赤ちゃんと胎盤をつなぐへその緒の中の血液(さい帯血、図6)中にも造血幹細胞が含まれており「日本さい帯血バンクネットワーク」はこれをプールし、移植のために提供しています。


【図6】さい帯血 さい帯血は50ml程度の量です。 凍結されたまま運ばれてきます


【終わりに】

 原発事故がきっかけで広がった骨髄移植は人々の善意の後押しも受けて、必要な方すべてに移植が可能となりつつあります。
 多くの合併症を克服しなければなりませんが、今も発展を続けています。


執筆いただいたのは

国立病院機構 熊本医療センター
血液内科医師

日高 道弘 副院長
・日本内科学会指導医・認定医
・日本内科学会総合内科専門医
・日本血液学会指導医・専門医
・日本造血幹細胞移植学会評議員
・日本造血幹細胞移植学会
移植認定医
・熊本大学医学部臨床教授