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脳腫瘍(のうしゅよう)の最新治療
頭蓋内(ずがいない)を構成する脳、髄膜、脳神経、下垂体などから発生する腫瘍を総称して「脳腫瘍」と呼びますが、人口10万人当たり年間約18〜20人が罹患(りかん)するといわれています。 脳腫瘍と聞くとすぐに「悪いもの」と考えがちですが、脳腫瘍にもいろいろな種類があり、その大部分が治療すれば治る良性のものです。今回は脳腫瘍の代表例を示し、最新の治療法をご紹介します。 |
はじめに |
【図1】原発性脳腫瘍の発生部位と頻度
全身に占める脳の容積はそれほど大きくないのに、発生する脳腫瘍には実に多くの種類がありますし、小児と成人では発生しやすい腫瘍の種類も違います。頻度別には、脳を包む髄膜から発生する髄膜腫(ずいまくしゅ)が最も多く、全体の4割近くを占めます。ついでグリオーマ20%、下垂体腺腫15%、神経鞘腫(しょうしゅ)10%の順に多く見られます(図1)。 |
脳腫瘍の種類 その1 髄膜腫 |
脳を包む3枚の髄膜のうち最も外側にある硬膜から発生し、脳実質を圧迫するように発育する良性腫瘍で、脳腫瘍全体の約4割を占めます。高齢になるほど多く、女性に多く発生します。1年に1〜3ミリとゆっくり発育するために症状が現れないことも多く、健診で偶然に見つかることもあります。頭蓋内面のあらゆるところに発生し、その場所に応じた症状を呈します。脳は、ほかの臓器と違って、場所によって機能が細かく分かれているためです。たとえば運動を担う脳の領域近くに発生すると反対側の手足の麻痺が起きるし、言語を担う領域に発生すると言葉が出にくくなります。腫瘍が大きくなると、頭蓋内の圧が上昇し、頭痛、嘔吐などの頭蓋内圧亢進(こうしん)症状が現れることもあります。 |
脳腫瘍の種類 その2 グリオーマ |
髄膜腫と双璧をなす頻度の高い脳腫瘍です。全体の25%ほどを占めます。周囲の正常な脳組織に侵入しながら発育するために、手術による全摘出は困難です。発症年齢の平均が40から50歳代と若く、腫瘍の悪性度により発育する速度が異なり、発症から数カ月で急速に進行する例もあります。発生した場所による症状のほかに、頭蓋内圧亢進症状で発症することも多く、けいれん発作を起こすこともあります。腫瘍内に出血を起こし、脳卒中のように突然発症する例もあります。 |
脳腫瘍の種類 その3 下垂体腺腫 |
全体の20%近くを占める3番目に多い腫瘍です。脳下垂体から発生する良性腫瘍で、ホルモンを産生するものと産生しないものに分けられます。ホルモンを産生しない場合は、大きくなって視野の障害で発見されることが多く、ホルモンを産生するものは、無月経や乳汁分泌がみられたり、手足が大きくなって指輪が入らなくなったりする症状で見つかることもあります。高血圧や糖尿病を伴うこともあるので、そのような場合は、一度下垂体ホルモンの検査を受けることをお勧めします。 |
脳腫瘍の種類 その4 聴神経鞘腫 |
聴覚をつかさどる神経に発生する神経鞘腫です。全体の10%弱を占めます。小さいうちは症状を示しませんが、大きくなると聴覚が低下し、体のふらつきや味覚の低下、顔面のしびれ感などを伴ってきます。脳の深部の脳幹という部分に近いところに発生するので、症状のない小さいものは手術をせずに経過を観察します。大きくなって脳の圧迫がみられる場合には手術により摘出します。手術中に聴覚と顔面の筋力のモニターをしながら摘出を行い、脳実質や脳神経機能の温存を図るようにしています。腫瘍が小さいものは最近ガンマナイフによる治療も行われています(図3)。 |
まとめ |
今回紹介した4種類の腫瘍だけで脳腫瘍全体の約85%を占めます。そのうちの半数以上が良性であり、適切な治療により後遺症なく治癒できることが期待できます。たとえ悪性と診断されても、さまざまな治療法を組み合わせることにより、有意義な生活をより長期にわたって送ることも可能です。脳腫瘍と聞いていたずらに怖がることなく、専門医とよく相談してご自分に適した治療を受けるようにしてください。 |
今回執筆いただいたのは… |
熊本大学脳神経外科
矢野 茂敏 講師 医学博士 脳神経外科専門医 神経内視鏡技術認定医 |