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「あれんじ」 2010年10月2日号

【専門医に聞く 元気!の処方箋】
脳腫瘍(のうしゅよう)の最新治療

 頭蓋内(ずがいない)を構成する脳、髄膜、脳神経、下垂体などから発生する腫瘍を総称して「脳腫瘍」と呼びますが、人口10万人当たり年間約18〜20人が罹患(りかん)するといわれています。
 脳腫瘍と聞くとすぐに「悪いもの」と考えがちですが、脳腫瘍にもいろいろな種類があり、その大部分が治療すれば治る良性のものです。今回は脳腫瘍の代表例を示し、最新の治療法をご紹介します。

はじめに
【図1】原発性脳腫瘍の発生部位と頻度

 全身に占める脳の容積はそれほど大きくないのに、発生する脳腫瘍には実に多くの種類がありますし、小児と成人では発生しやすい腫瘍の種類も違います。頻度別には、脳を包む髄膜から発生する髄膜腫(ずいまくしゅ)が最も多く、全体の4割近くを占めます。ついでグリオーマ20%、下垂体腺腫15%、神経鞘腫(しょうしゅ)10%の順に多く見られます(図1)。
 良性腫瘍は周囲の組織を圧迫しながら発育し、さまざまな症状を呈しますが、治療により完治が望めるものです。これに対して悪性腫瘍は、周囲に侵入して広がる形で発育し、さまざまな治療を行っても完治が難しいもので、生命の危険があります。ただし、脳の悪性腫瘍では、ほかの臓器のものと違って、ほとんど遠隔への転移は見られません。また、ありがたいことに脳腫瘍の半数以上は良性です。


脳腫瘍の種類 その1 髄膜腫

 脳を包む3枚の髄膜のうち最も外側にある硬膜から発生し、脳実質を圧迫するように発育する良性腫瘍で、脳腫瘍全体の約4割を占めます。高齢になるほど多く、女性に多く発生します。1年に1〜3ミリとゆっくり発育するために症状が現れないことも多く、健診で偶然に見つかることもあります。頭蓋内面のあらゆるところに発生し、その場所に応じた症状を呈します。脳は、ほかの臓器と違って、場所によって機能が細かく分かれているためです。たとえば運動を担う脳の領域近くに発生すると反対側の手足の麻痺が起きるし、言語を担う領域に発生すると言葉が出にくくなります。腫瘍が大きくなると、頭蓋内の圧が上昇し、頭痛、嘔吐などの頭蓋内圧亢進(こうしん)症状が現れることもあります。
 治療は手術による摘出で、全摘出できれば治癒することが期待できます(図2)。手術に際しては、周囲の脳組織を傷つけないように摘出することが重要です。しかし頭蓋底など腫瘍の発生場所によっては全摘出が困難なものもあり、無理に全摘出を行わなくても腫瘍を小さくしてガンマナイフなどの放射線療法を併用することで脳の機能を温存しながら高い治療効果を得ることが可能です。ガンマナイフやサイバーナイフ、ノバリスは腫瘍に集中的に高線量の放射線を照射して治療する方法で、放射線手術とも呼ばれています。周囲の組織に放射線の影響が及びにくいのが特徴です(図3)。
 最近のCT、MRIなどの画像診断技術の発達により、症状のない髄膜腫が見つかる例が多くなっています。症状のない場合は、まず様子をみます。大きさが変わらないことも多いので、いたずらに心配せずに定期的にMRI で検査を受けましょう。大きくなってきたら年齢や全身の合併症を考慮して症状が現れる前に摘出を行うこともありますので、手術の時期については担当医と十分に相談してください。

上段中央の顔面の立体図では、両眼と腫瘍が緑色で示され、予想される多数の放射線の軌道が水色で示されている。上段左右の図は、脳の水平スライス面(左)と前額スライス面(右)を使って集積が期待される放射線の強さを疑似カラーで示してある(赤色が最強部位)。下段の両図では、脳腫瘍に対し実際に行われた治療の効果を検証している脳全体の水平スライス図で、上方が前方(顔面側)にあたる。矢印先端にある腫瘍の著しい縮小が分かる。


脳腫瘍の種類 その2 グリオーマ

 髄膜腫と双璧をなす頻度の高い脳腫瘍です。全体の25%ほどを占めます。周囲の正常な脳組織に侵入しながら発育するために、手術による全摘出は困難です。発症年齢の平均が40から50歳代と若く、腫瘍の悪性度により発育する速度が異なり、発症から数カ月で急速に進行する例もあります。発生した場所による症状のほかに、頭蓋内圧亢進症状で発症することも多く、けいれん発作を起こすこともあります。腫瘍内に出血を起こし、脳卒中のように突然発症する例もあります。
 現時点では手術以外に腫瘍を縮小させる確実な方法はなく、よほどの高齢者や全身的な機能に問題のある場合でない限り早期に手術を行います。摘出に際しては、周囲の大事な機能を担っている脳組織を温存する一方で、できるだけ多くの腫瘍部分を取るような工夫が必要です。最近では、術前に言語や運動などの脳機能を担う部位をMRIで確認する方法が開発されています。脳機能を担う部位が腫瘍による圧迫でずれてしまっていることが多いからです(図4B)。この画像と腫瘍の画像を組み合わせ、実際に手術している位置を示すナビゲーションシステムという方法を併用しながら、安全で確実な摘出手術を行っています(図4A)。また、術中にも運動神経や感覚神経を実際に刺激しながら神経の場所を確認して、機能が維持できていることを確かめながら手術を進めていきます。
 手術でできるだけ摘出しますが、完全に腫瘍を摘出することはできないので、術後に放射線療法や化学療法を組み合わせて治療を行います。最近は新しい治療薬が開発され、治療効果が認められています。

腫瘍(白い部分)の位置と範囲を各方向から測定し、組み立てた立体像を参照しながら手術を進める。青い線の先端部が現時点のメスの位置を示しており、腫瘍のどの部分に相当するかがリアルタイムに示される。

2枚の図は、異なる高さで見た脳全体の水平スライス像である。スライス脳の上に、神経線維の走行が立体的に表示されている(緑と青のライン)。両図とも、右半分は正常な脳半球なので、緑で示された神経線維の束がきれいにまとまっているが、左半分の病側の脳半球では、中央部分にある大きな腫瘍(黄色い矢印)により、神経線維の束が青と緑のごとく分断されている。


脳腫瘍の種類 その3 下垂体腺腫

 全体の20%近くを占める3番目に多い腫瘍です。脳下垂体から発生する良性腫瘍で、ホルモンを産生するものと産生しないものに分けられます。ホルモンを産生しない場合は、大きくなって視野の障害で発見されることが多く、ホルモンを産生するものは、無月経や乳汁分泌がみられたり、手足が大きくなって指輪が入らなくなったりする症状で見つかることもあります。高血圧や糖尿病を伴うこともあるので、そのような場合は、一度下垂体ホルモンの検査を受けることをお勧めします。
 内服薬で腫瘍の縮小とホルモン値の正常化が得られるものもありますが、それ以外は手術を行います。最近は、図1Aと図5Bにある位置関係からわかるように、鼻腔内から内視鏡を挿入して副鼻腔を経由し、下垂体腫瘍を内視鏡で摘出するという苦痛の少ない方法が行われています(図5A)。また、術中に血中のホルモン値を測定しながら摘出手術を進めることで、実際にホルモン値が低下したことを確認することができるようになりました(図5C)。
 ほとんどの症例で手術により視野障害の改善が認められますが、長期間放置すると改善度が低くなりますので、異常を感じたら早期の受診をお勧めします。


脳腫瘍の種類 その4 聴神経鞘腫

 聴覚をつかさどる神経に発生する神経鞘腫です。全体の10%弱を占めます。小さいうちは症状を示しませんが、大きくなると聴覚が低下し、体のふらつきや味覚の低下、顔面のしびれ感などを伴ってきます。脳の深部の脳幹という部分に近いところに発生するので、症状のない小さいものは手術をせずに経過を観察します。大きくなって脳の圧迫がみられる場合には手術により摘出します。手術中に聴覚と顔面の筋力のモニターをしながら摘出を行い、脳実質や脳神経機能の温存を図るようにしています。腫瘍が小さいものは最近ガンマナイフによる治療も行われています(図3)。


まとめ

 今回紹介した4種類の腫瘍だけで脳腫瘍全体の約85%を占めます。そのうちの半数以上が良性であり、適切な治療により後遺症なく治癒できることが期待できます。たとえ悪性と診断されても、さまざまな治療法を組み合わせることにより、有意義な生活をより長期にわたって送ることも可能です。脳腫瘍と聞いていたずらに怖がることなく、専門医とよく相談してご自分に適した治療を受けるようにしてください。


今回執筆いただいたのは…
熊本大学脳神経外科
矢野 茂敏 講師

医学博士
脳神経外科専門医
神経内視鏡技術認定医