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「あれんじ」 2019年3月2日号

【元気!の処方箋】
発育期に注意したい スポーツ障害

 新入学、新学期を前に心弾む季節がやってきました。子どもにはスポーツにも取り組んでほしいですが、過度な練習やウオーミングアップ不足などによるけがには気を付けたいものです。

 今回は、発育期のスポーツ障害についてお伝えします。

【はじめに】1回の大きな力による「外傷」 繰り返し加わる力による「障害」
【図1】スポーツ外傷・障害

 スポーツ障害とは、スポーツに関係して起こる運動器のトラブルを指します。

 その中でも、運動中、体に急激な大きな力が加わって起こる不慮のけがを「スポーツ外傷」といいます。

 一方、運動動作によって体の特定部位に繰り返し力が加わることによって起こるものを「スポーツ障害」といいます。同じ部位の酷使によることから「オーバーユースシンドローム」とも呼ばれています。

 どちらも、子どもの運動習慣や運動器の特性を背景に起きやすいものがあり、注意が必要です(図1)。


【背景1/運動習慣】身体活動に二極化進む現代っ子
【図2】現代っ子の身体の二極化

 「最近の子どもは外遊びをしないから運動能力が低い。だからけがをする」といった声を聞くこともあります。しかし文部科学省の体力・運動能力調査結果によると、7歳から11歳の子どもの運動能力はここ十数年あまり変わっていません。以前に比べ、体力や運動能力が劣っているというデータはないのです。

 ところが、少子化で児童生徒数が減少しているにもかかわらず、体育事故件数は増えているという現実があります。この背景には、(図2)のような二極化が背景にあると考えられます。

 身体活動が過少な場合は、腹筋と背筋のバランスなど体幹筋の機能が悪く、猫背でおなかが出ているような姿勢が悪い子どもが多い印象です。筋肉の柔らかさに欠け、バランスが悪いことが、けがの原因となります。

 身体活動過多によるスポーツ障害では、次に紹介する運動器の特性と運動の方法が特に関係してきます。せっかく努力、継続してきたスポーツが寸断されるという事態を招かないためにも、正しい知識を持ちましょう。


【背景2/発育期の運動器の特性】大人のミニチュア版ではない子どもの運動器
【図3】成長期の骨組織

 スポーツ障害の予防を考えるには、成人とは異なる発育期の運動器の特性を理解しておかなければなりません。子どもの運動器は、大人の縮小版ではないのです。

 まず、骨(こつ)組織。大人は、筋肉や腱(けん)、靱帯(じんたい)より骨が力学的に強いのですが、成長している段階の子どもの骨の力は筋肉や腱より弱いのです。

 また骨の両端には、成長軟骨板という成長する部分があります(図3)。男性では14、5歳、女性では12、3歳くらいで消失するのですが、この部分が損傷されると、成長後にも障害が残る危険性があります。

 筋肉や腱といった軟部組織は、骨の成長に対する順応性が追いつかず、緊張状態になっています。特に第二次性徴期など身長が著しく伸びる時期は過緊張状態といえます。その状態がスポーツ障害のベースになるのですが、そこに運動の負荷が大きく、あるいは繰り返しかかることで、トラブルが起きてしまいます。


【どんなけがにどう注意する?】十分なウオーミングアップ 痛みが出たら受診し、治療を
【図4】成長期の骨盤剥離(裂離)骨折の
好発部位と関係する筋肉

 先に述べた特性を背景に起きやすいけがに、剥離(はくり)(裂離)骨折があります。

 ウオーミングアップが十分でないまま急なダッシュやジャンプをすると、大人は腱が切れたり肉離れを起こしたりしますが、骨より腱や靱帯の方が強い子どもでは、筋肉が付いている根元の骨がはがれるような骨折が起きます(図4)。

 これを防ぐには、運動前に十分なウオーミングアップで筋肉を柔らかい状態にすることが大事です。

 また、同じ場所に繰り返し負荷がかかることで起きる野球肘や膝に痛みが出るオスグッド病なども起きやすい疾患です。膝の痛みなどはよく「成長痛だから、しばらくすれば治る」と言う人もいますが、運動をしている場合はスポーツ障害を疑って、受診してください。

 「けがは押して(試合や練習に)出るものではなく、直して出るもの」。大人でもそうですが、子どもは将来にも関わってくるということを、保護者も指導者も肝に銘じたいものです。


【子どものスポーツ育成】年代に適した運動指導が体を守り、成果を上げる

 幼い頃からスポーツに親しむことは、良いことです。その際、子どもの運動器や発達・発育の特徴を知って、周りが上手に導くことが、本人の成長においても、競技界においても、とても大事です。

 例えば、「運動神経がいい」と表現されるような精密な動作は、6歳くらいまでの刺激によって8歳くらいまでに確立されるといわれています。一方、筋力やスピードなどの力強さは中学生くらいから発達してきます。

 そういった成長の特徴を持つそれぞれの年代にあった指導をすることが、子どもの体を守り、かつ成果を上げることにつながります。

 キッズの年代では勝ちにこだわる必要はなく、さまざまな経験こそが成長の糧なのです。その年代に最適なトレーニングをし、次の年代へステップアップしていく。子どものスポーツ育成は、成長の観点から考えたいものです。


【終わりに】運動器検診の大切さに理解を

 2016年4月に学校保健法が改正され、運動器に関する検査が、児童生徒等の健康診断の必須項目に追加されました。もっと運動器疾患に目を向けましょうということです。

 専門医らがメディカルチェックすることで、スポーツ障害の早期発見や改善、予防につながります。私たち専門医は、頑張っている子どもたちの競技が寸断されることがないよう関わりたいと考えています。

 運動器検診の重要性の理解が広がることを切に願っています。


話を聞いたのは
熊本大学医学部附属病院 整形外科
中村 英一 講師

専門は、膝関節外科、足関節外科、スポーツ整形外科、小児整形外科
・日本整形外科学会(専門医、スポーツ医、運動器リハビリテーション医)
・日本足の外科学会(評議員、学術研究委員)
・日本リハビリテーション医学会(認定臨床医、専門医、指導医)
・日本スポーツ協会公認スポーツドクター
・日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)(評議員、教育研修委員)
・国際関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(ISAKOS)
(active member、Knee Committee member)