研修医になって初めて患者さんを目の前にした時、最初に分かったことは「自分は何もできない」ということでした。必死に勉強した医学的知識も医療現場では全く通用しないのです。
とにかく何もできないので、当時在籍していた病棟の看護スタッフに頼んで、まずは患者さんの身の回りのケアを毎日一緒にさせていただくことにしました。
食事や排せつの介助、検査への移動、ときに逝去時のケアなど、どれも一朝一夕にできるものではなく、「やっと足手まといにはならなくなったかな」と思えるまで何カ月もかかりました。
スタッフはもちろん、患者さんにもずいぶん迷惑をかけてしまいましたが、入院生活に密着することで学べることがありました。医師の仕事は多くの医療スタッフによって支えられている、また、患者さんに育てていただいている、そう実感した研修スタートでした。
それから早いもので、干支が一回り以上しました。「未来ある子どもたちの役に立ちたい」。そんな思いで小児科医になりましたが、相変わらず子どもたちから学び、育ててもらっている日々です。
医学は日進月歩ですが、私の方は、病気と向き合い闘っているお子さん、必死に看病されている親御さんたちを前に何もできず、あの頃の自分と比べて何か成長できたのだろうかと、無力感にさいなまれることもあります。
お子さんとそのご家族に寄り添って、少しでもお役に立てるように、初心を忘れずこれからも励んでいきたいと思っています。 |