私は1989(平成元)年に医学部を卒業し、医師免許取得後29年間、内科医として仕事をしてきた。驚くことに、学生時代を含め35年間もどこかの病院に所属していたことになる。つまり、ある意味医療のことを除けばかなりの世間知らずである。
私が医師として働き始めた時、女性医師は少なかった。患者さんの男女比はほぼ同じなのに、同業者の中で私はいつも少数派だった。しかしそれを損だと思ったことはなかった。
ありがたいことに、私の先輩の女性の先生方が皆とても素晴らしくて、ある先輩は優しくおおらか、ある先輩は常にテキパキと働きスマートで格好良く、またある先輩(この先輩に一番憧れていたが)は患者さんの病態を的確に把握し、いつの間にか治療を思い通りに進めていくので、いつも
驚かされた。
そういう憧れの先輩たちがいることが励みになったし、実は患者さんの心の動きを理解した方が診断や治療もうまくいくことが分かり、医師として働くことは自分に向いていると思えた。
しかし今思えば、若い時は本当の意味で患者さんの心を理解できていないこともあった。それでも患者さんは私のすることを理解し、しかも感謝までしてくれた。その繰り返しの中で私はさまざまな経験をし、医師として成長してこられた。
つまり、私を医療人として育ててくれたのは、患者さんたちなのである。私を気遣い励ましてくれる患者さんたちに心から感謝したい。本当にありがとう。 |