すぱいすのページ

トップページすぱいすのページ「あれんじ」 2018年11月3日号 > 11月14日は世界糖尿病デー 糖尿病をもっとよく知ろう

「あれんじ」 2018年11月3日号

【元気の処方箋】
11月14日は世界糖尿病デー 糖尿病をもっとよく知ろう

 糖尿病は、患者数が急速に増加しています。生活の質を著しく下げる合併症も含め、誰もが気を付けたい病気です。

 今回は、11月14日の世界糖尿病デーを前に、糖尿病について詳しくお伝えします。

【はじめに】

 日本の糖尿病患者数は増加の一途をたどっており、糖尿病患者とその予備群はおよそ2000万人に達しています。

 糖尿病患者数の増加は世界的にも問題であり、2006年には国連が11月14日を「世界糖尿病デー」と公式に認定しました。全世界が一致団結して糖尿病の予防と克服に向けて闘うことを呼びかけています。


【Q】糖尿病の原因は?

【A】タイプによって異なるが、90%以上を占める2型糖尿病は、体質に生活習慣の乱れが加わって発症

 血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が慢性的に高くなる状態が糖尿病です。ブドウ糖は体にとって必要不可欠の栄養素ですが、過剰に血液中に存在すると血管を傷めるなど、さまざまな合併症を引き起こします。

 血糖値はインスリンという膵臓(すいぞう)から出るホルモンによって調節されています。このインスリンの分泌が障害されたり、インスリンの作用が障害されたりすると、糖尿病が発症します。

 糖尿病は、1型糖尿病、2型糖尿病、その他特定の疾患・機序による糖尿病、妊娠糖尿病の4つのタイプに分類されます。

 1型糖尿病は、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が主に自己免疫という異常な作用によって破壊されて発症します。思春期前後が好発年齢で、糖尿病全体の5%未満です。

 最も多いのが2型糖尿病で、糖尿病の90%以上を占めます。糖尿病になりやすい体質に、肥満や
運動不足などの生活習慣の乱れが加わって発症する、代表的な生活習慣病です。


【Q】初期症状はありますか?

【A】自覚症状に乏しい2型糖尿病 健康診断などで血糖値の確認を

 2型糖尿病の場合、特に自覚症状に乏しいのが特徴で、健康診断などで血糖値を測定しないと初期の段階で見つけることは困難です。

 喉の渇きや多飲、多尿、倦怠感、体重減少などの症状は1型糖尿病の発症時や、2型糖尿病でも著しい高血糖の際に認められますが、このような症状が出現した時には、すでに2型糖尿病では病態がかなり進行していることが心配されます。

 健診の結果、血糖値(通常は早朝の空腹時の採血です)が126r/dLを超えていれば糖尿病が強く疑われます。110〜125r/dLであれば、糖尿病予備群ですが、詳しい検査をすると初期の糖尿病が判明することがあります。

 いずれかに該当する場合には、病院への受診をお勧めします。また、100〜109r/dLでも、将来糖尿病へと進展する危険性が高いといわれていますので、生活習慣の積極的な是正が必要です。


【Q】どんな治療方法がありますか?

【A】それぞれに異なる病態を検査で判断 適切な治療の選択を

 糖尿病治療の基本は食事療法です。身長から計算される標準体重や、日頃の運動量を参考に1日の摂取カロリーを決め、栄養バランスのとれた食事を心がけます。できる限り歩くなど日頃の生活に運動習慣を取り入れることも重要です。

 食事や運動で十分な効果が得られないときには、薬物療法を併用します。薬物療法には、飲み薬と注射薬(インスリンとGLP―1受容体作動薬)があります。

 飲み薬は、@インスリンの分泌を助ける薬、Aインスリンの作用を助ける薬、B糖の小腸からの吸収や尿中への排泄を調節する 薬の3種類に大別されます。糖尿病のタイプや病態に最も適したものを選択します。

 1型糖尿病では、膵臓のβ細胞が破壊されて発症するために、インスリンの絶対的な不足が生じます。従って、インスリンを注射して治療する必要があります。一方、2型糖尿病は、インスリン作用の障害(インスリン抵抗性)とインスリン分泌の障害が相まって起こっています。このように病態がそれぞれに異なりますので、採血などの検査で病態を判断します。さらに、肥満や低血糖などの危険性の有無などを考慮に入れて薬が選択されます。

 きちんと糖尿病を治療すると、合併症の発症や進行を阻止できます。


【Q】放置するとどうなりますか?

【A】目や腎臓、神経の障害など特徴的な合併症を発症。重篤になる場合も

 糖尿病を放置すると、目や腎臓、神経の障害などの糖尿病に特徴的な合併症を発症し、重篤になると失明や腎不全による人工透析導入、あるいは壊疽(えそ)で足の切断が必要になることもあります。

 実際、日本における透析導入の原因疾患の第1位が糖尿病による腎不全ですし、後天性の失明の原因疾患の第2位が糖尿病網膜症です。さらに、糖尿病があると、心筋梗塞や脳梗塞などの原因となる動脈硬化症を引き起こしやすくなります。また、歯周病や認知症、あるいは肝臓がんや膵臓がんなどのリスクを高めることも知られてきました。

 きちんと糖尿病を治療すると、合併症の発症や進展を阻止できることを私たちは証明していますし、血糖値の管理だけではなく、血圧や脂質も含めた総合的な管理が動脈硬化症や糖尿病による死亡を減少させることも示されています。糖尿病と診断されたら、途中で治療を中断せず、治療を継続することが重要です。


【Q】糖尿病治療の目標は?

【A】合併症を防ぎ、健康な人と変わらない寿命を

 1〜2カ月の血糖値を反映する検査に、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)があります。これは赤血球の中のヘモグロビンにブドウ糖が結合して離れなくなったものの割合を示しており、%で示されます。通常は6%未満です。

 糖尿病の場合、患者さまでその目標値は異なりますが、多くの場合7%未満を目指すことが推奨されています。【図@】

 また、高齢者では年齢や認知機能の障害の有無、使用している薬剤の種類などによって目標値が異なります。【図A】自分自身の目標値を主治医に確認する必要があります。

 さらに、糖尿病があればLDL―C(悪玉コレステロール)を120r/dL未満、HDL―C(善玉コレステロール)を40r/dL以上、血圧を130/80oHg未満に管理することが推奨されています。これらの管理によって糖尿病の合併症を防ぎ、健康な人と変わらない寿命を全うしていただくことが糖尿病治療の究極の目標です。


【図@】血糖コントロールの目標
治療目標は年齢、罹(り)病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。

 65歳以上の高齢者については「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を参照

注1) 適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
注2) 合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
注3) 低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
注4) いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。

日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2018-2019,p.29,文光堂,2018より転載


【図A】高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)

 治療目標は、年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などに加え、高齢者では認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)、併存疾患なども考慮して個別に設定する。ただし、加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する。

※ 注1)〜注3)については出典をご参照ください。

日本老年医学会・日本糖尿病学会 編・著:高齢者糖尿病診療ガイドライン2017,P.46,南江堂,2017より改変


執筆いただいたのは

熊本大学大学院 生命科学研究部代謝内科学
荒木 栄一 教授

熊本大学医学部附属病院 副病院長
・日本内科学会認定指導医
・日本糖尿病学会認定専門医、同認定研修指導医
・日本内分泌学会認定専門医、同認定指導医
・日本老年医学会認定指導医
・日本病態栄養学会認定病態栄養専門医
・日本肥満学会肥満症専門医