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「あれんじ」 2018年9月1日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第72回】笑顔でいられるように

女性医療従事者によるリレーエッセイ【第72回】

【第72回】笑顔でいられるように
熊本大学医学部附属病院 小児科/医師
日 優子

 「ママ、怖い顔しないで。にこにこして」。娘に言われ鏡を見ると、笑っていたつもりの自分の顔が引きつっていることに気付き愕然(がくぜん)とした。産後、仕事復帰し、仕事に家事に育児に追い詰められていた。

 このところ、娘がすぐいらいらし物に当たったりしていた。長時間預けるようになって寂しい思いをさせているのかなと悩んでいたが、そうか、私がいらいらして怖い顔をしているから、娘も精神的に不安定になっていたのだ。申し訳なさと情けなさで涙が出た。

 小児科医になったのは子どもが好きだから。医師7年目に娘を授かった。子育ては想像以上の大変さだった。母乳が出ない、体重が増えない、寝てくれない、離乳食が進まない。夜中に熱が出ると不安だった。「小児科医だから何も心配いらないでしょう」と周囲から言われたが、母親としては新米。不安だらけだった。

 そのとき先輩から、「子育てはたくさん悩むけどいつの間にか解決していて、そうしたら次の悩みが出てくる。その繰り返しだけどいつか解決するから大丈夫」と言われ、気が楽になったのを覚えている。

 病棟で長期間入院に付き添っているお母さんたちは不安でいっぱいのはずなのに、一生懸命子どもたちに向き合ってらっしゃる。いつも笑顔で、担当医でない私にも話しかけてくださる。その姿を見て頭が下がる思いがし、自分の未熟さが恥ずかしくなる。

 「ママ、泣かないで。大丈夫だよ、私がいるよ」と娘が私の頭をなでてくれた。一層涙が出た。できるだけ笑顔でいられるようにしよう、そう心に誓った