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「あれんじ」 2010年9月18日号

【四季の風】
【第6回 阿蘇晩夏】

めぐりくる季節の風に乗せて、四季の歌である俳句をお届けします。

詩人いま露におぼれんばかりなり  中正

 夏一番の楽しみは、一泊の夏季合宿です。昨年は九重、今年は阿蘇。俳句漬けの二日間、大自然に抱かれて俳句三昧(ざんまい)です。
 第一日目は朝、熊本からバスで明神池(みょうじんいけ)の吟行。この神社の杉林は深く、水はあくまで清く、心ゆくまで俳句ができるおすすめのスポットです。
 池の底から、まるで音楽のようにこんこんと泉が湧き出ると、他方、この大地の営みに応えるように、空には風が起こり雲が走ります。まさに天地躍動。さらにじっと、無限に湧く泉を見ていると、まるで地の底から水の柱が立ち上がり、そこから詩や音楽の神(ミューズ)が大空へ飛び立つようです。透明な泉には、たしかに詩の神が宿っているのです。

泉湧く天上に風起こしては  
中正

泉より詩神たしかに立ちあがる  
中正

 今日の宿はグリーンピア。六十八人での第一回目の俳句会が済むと、楽しい夕食。目の前には暮れてゆく五岳、眼下にはともりはじめた家々の灯を見ながら、ビールです。心を開いて俳句の話が弾みます。

老俳徒(はいと)頬(ほお)にビールの泡残し  
三宅一生

 泊まりがけの吟行の一番の楽しみは、早朝の作句。霧や露にまみれ、夏鴬(なつうぐいす)、ホトトギス、郭公(かっこう)(閑古鳥(かんこどり))などの声を浴びて、自分もまるで草原の一本の草となって俳句をつくるのは、至福の時間です。一面の霧が暗くなったかと思うとスコール。頬まで雨に濡れながら、それでも阿蘇の天地に立ち向かって句を作ります。すると、青く割れた一角から天の声がして、たちまちの青空。朝日が射し鳥の声が聞こえてきます。

声に日の当たりだしたる閑古鳥 
大川内みのる

 これはまるで、古代の神々が演じるカルデラのドラマ。その中で私たちもみな詩人となって露におぼれながら、ゆく夏を惜しむのです。

詩人いま露におぼれんばかりなり 
中正