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「あれんじ」 2017年12月2日号

【元気の処方箋】
頑固な便秘には理由がある!? 改善しよう!慢性便秘症

 慢性的な便秘に悩む人たちは、便秘そのものが病気として扱われないこともあり、市販薬に頼ったり、改善を諦めたり、というケースが多いと聞きます。そんな中、今年10月に日本で初めて「慢性便秘症診療ガイドライン※」が発行されました。

 今回は、便秘の原因や改善・治療法などについてお伝えします。(取材・文=坂本ミオ)

※慢性便秘症診療ガイドライン2017は、日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会の編集発行

【はじめに】理想の排便とは? 排便回数だけでなく、便自体にも注意

 一般的な「理想の排便」とはどんなものでしょう。

 よく言われるのは“バナナ便”を毎日、1〜2本程度。つまり、バナナぐらいの太さ、軟らかさで、表面が滑らかな便が望ましいとされています。

 また、便の色や臭いにも望ましい状態があります。色は、食べたものにも影響されますが、黄土色がよく、濃い茶色や、血液が混じったことを意味する黒色に近い便が増えてきたら注意が必要です。

 臭いも、健康な大腸で乳酸菌による“発酵”を通して作られる便は、多少臭いがあっても不快な臭いはしないはず。不快な強い臭いがするのは、腸内細菌環境が乱れて、“腐敗”が優勢になっている証拠です。


【便秘ってなに?】一定ではない便秘の定義 不快や苦痛を感じるか?

 一口に便秘といっても、排便回数や排便量は個人差が大きく、客観的に定義するのは難しいことです。日本内科学会、日本消化器病学会、国際消化器病学会など、学会によっても定義は一定ではありません。

 ですが、排便の回数にかかわらず、
◎便が硬くて、排便が苦痛
◎残便感があって、すっきりしない
◎薬を飲まないと便が出ない
など、本人が排便に不快や苦痛を感じるならば、便秘といえます。


【便秘はなぜ起きる?】機能性便秘には3タイプ それぞれに異なる原因
【図】機能性便秘のタイプ

 便秘は大きく分けると、機能性便秘と器質性便秘があります。

 器質性便秘は胃や腸などの疾患が原因で起きるものです。今回は、そうではない機能性便秘について説明します。

 機能性便秘のメカニズムを簡単に説明することは難しいのですが、病態によって「大腸通過遅延型」「大腸通過正常型」「便排出障害」に分けられます【図】。


◎大腸通過遅延型

 大腸内での便の停滞時間が長いために便が硬くなり、排便が困難になります。

 病気や薬剤が原因となることが多く、病気によるものでは、代謝・内分泌疾患(糖尿病、甲状腺機能低下症、慢性腎不全など)、精神疾患(うつ病など)、神経疾患(パーキンソン病など)、膠原病(強皮症、皮膚筋炎など)などが挙げられます。

 薬剤では、向精神薬(抗うつ薬)、抗コリン薬(抗パーキンソン病薬)、オピオイド系薬(モルヒネ)などです。


◎大腸通過正常型

 便を送る大腸の働きは保たれているのに便秘を来すのが、このタイプです。

 食事の量、特に食物繊維の摂取が不足すると、十分な便量ができないために便秘になります。食物繊維は、張り子の骨組みのような役割を果たします。食物繊維が足りないと、便が形作れないのです。

 過剰なダイエットは、便秘も招きますので注意が必要です。


◎便排出障害

 私たちが便を排出できるのは、横隔膜と腹筋を収縮させて腹圧を高める「いきみ」と、骨盤底筋群の弛緩(しかん=ゆるみ)の協調運動を無意識に行っているからです。

 それが、加齢や出産などにより、うまくできなくなる骨盤底筋協調運動障害や、便が下りてきた知覚が鈍くなる直腸の知覚低下などによって便の排出障害が起き、便秘になります。


【便秘を改善するには】食物繊維、発酵食品、水分を取ろう 便意を我慢しないことも大事

 便のもとは食事です。まずは食事、そして生活全般を見直しましょう。

@朝食をきちんと食べる
 大腸が動き出し、排便が促されます。

A食物繊維の不足に注意
 食物繊維で便のかさを増すことで、早く肛門側へと運ばれます。かさのある便が直腸に下りてくると、直腸の壁が伸ばされた刺激が脳に伝わり便意を感じます。
 この便意を我慢することが続くと、直腸の知覚低下を来します。

B動物性タンパク質の取り過ぎに注意
 肉類には繊維質は全く含まれていません。過剰に摂取すると、腸内での腐敗につながります。

C発酵食品を摂取
 乳酸菌やビフィズス菌に代表されるプロバイオティクスが有効なことは、国内外の試験で示されています。ヨーグルトや納豆、みそ、ぬか漬けなどの発酵食品がお勧めです。

D水分を多めに取る

E適度な運動をする

F便意を感じたら我慢しないで出す習慣を
 我慢を繰り返すことで直腸の知覚低下が起き、便意が起きにくくなってしまいます。学校や職場で我慢し、便秘になってしまうケースもあるようです。便意が起きやすい朝食後の時間をゆっくり取るようにしましょう。


【便秘の治療】習慣性や依存性がない 新たな薬も登場

 大腸通過遅延型の場合、原因となる病気の治療や薬剤への対処が必要です。

 それ以外の多くの場合、治療はまず、左上に紹介した生活習慣の改善から。次に薬物治療になります。

 便秘薬は大きく分けて、便を軟らかくして自然な排便を促す「緩下剤(かんげざい)」と、大腸を刺激して排便させる「刺激性下剤」があります。

 基本的には、適量の緩下剤を常用し、刺激性下剤を必要に応じて用います。刺激性下剤を常用すると癖になったり、効きにくくなったりします。

 緩下剤の代表的な酸化マグネシウム(カマグⓇ、マグミットⓇ)は、副作用として高マグネシウム血症を起こすことがあるため、高齢者や腎機能が悪い人は注意が必要です。

 最近は、これまでの薬と効果を及ぼす仕組みが異なる新しい薬も登場しています。ルビプロストン(アミティーザⓇ)は、高齢者や腎機能が悪い人にも安心して使え、習慣性や依存性もありません。リナクロチド(リンゼスⓇ)は、ストレスなどが要因となって便秘または下痢を繰り返す過敏性腸症候群の便秘型のタイプに効果があります。

 その他、大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、大建中湯(だいけんちゅうとう)などの漢方薬も古くから用いられ、その効果が現在、再認識されています。


【終わりに】症状によっては早めの大腸内視鏡検査を

 今回は触れなかった器質性便秘は病院で診てもらわないと本質的な治療はできません。

 便秘と大腸がんの関係については現在、明らかではありませんが、便秘が比較的急に始まった、あるいは便秘と下痢を繰り返すといったことがあれば、早めに大腸内視鏡検査を受けましょう。大腸がんが隠れている場合があります。

 慢性便秘ではない人も、自分の便通や便の状態に注意を払ってほしいと思います。


話を聞いたのは
熊本大学大学院
生命科学研究部消化器内科学 
直江秀昭 助教
 
・日本内科学会認定医
・日本消化器病学会指導医
・日本消化器内視鏡学会指導医
・日本がん治療認定医機構認定医