くまもと芦北
療育医療センター
言語聴覚士 渡辺ひとみ
コミュニケーションはよくキャッチボールに例えられます。言葉というボールのやりとりがうまくいっているのかいないのか、言葉に限らずその人が使用可能なコミュニケーション手段を探し出し、生かしていくのが言語聴覚士の仕事の一つです。
当センターでは重度の知的障害と身体障害を抱えた利用者が生活をされています。言葉が理解できる利用者は少ないため、音やもの、声や体を駆使して、主に五感に働きかけながら訓練を行っています。
反応も利用者で違い、力強く手を動かしてくれる方、視線や指先で合図してくれる方、心拍数を上げて答えてくれる方などさまざまです。
さて、入所利用者の男性Aさん。名前を呼ばれたら握手をするという訓練に取り組んでいますが、本人が好きなタオルを手に巻いてみても手を誘導してみても、なかなか応じてくれません。しかし名前を呼び続けること3年、この夏、待ちに待ったその日が突然訪れました。
セラピストが差し伸べた手に自らそっと触れてくれたのです。それはとても優しい握手でした。その場にいたスタッフは全員「できたー!」と大喜び。しっかりとボールが届いた瞬間です。
これが定着すればセラピスト以外の人とでも握手ができるようになるかもしれないと、次の目標が見えた瞬間でもありました。
この瞬間がたまらなくうれしくて、私はリハビリの仕事をしています。いつか届くと願いながらもう1回、もう1回と、明日もボールを投げ続けるのです。 |