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「あれんじ」 2017年7月1日号

【四季の風】
第38回 万緑(ばんりょく)

夏は若葉の「新緑」、それからどこもかしこも緑で生命力あふれる「万緑」になる。次の句は、とくに有名。

万緑の中や吾子(あこ)の歯生え初(そ)むる 中村草田男

万緑や草田男の吾子四姉妹 土屋芳己 

 一句目は、「万緑」という季題の誕生のきっかけになった句。わが子の白い歯も万緑も、いのちあふれる。二句目は、これを踏まえた、ああそうかという一寸(ちょっと)楽しい句。

 さらに「緑蔭」という、美しい木陰の季題もある。ここは、町騒(まちざい)を離れて、瞑想したり読書したりと、別天地である。


緑蔭に聖者のごとくをられけり 岩岡中正

緑蔭に少女一心不乱の背 岩岡中正

 ただ同じ「緑」でも、「若緑(わかみどり)」といえば春の終わりのころぐんぐん伸びる「松の芯」、つまり松の新芽のこと。「松の緑」や「緑立つ」ともいって、春の季題。これまた松が持つ生命力を象徴する。


若緑肥後に不知火諾右衛門(しらぬいだくえもん)  岩岡中正

 御存知のように、不知火諾右衛門は、江戸時代の宇土の旧・轟村出身の第八代横綱。今も栗崎町の小高い丘にその墓がある。宇土出身の正代関(ぜき)も、この松の緑のようにがんばってほしい。