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「あれんじ」 2017年6月3日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第62回】始業式の翌朝に

女性医療従事者によるリレーエッセイ【第62回】

【第62回】始業式の翌朝に
国立病院機構
熊本医療センター小児科 
医長 緒方美佳

 今春、娘は“年中”になった。その始業式の翌朝、「お腹が痛いから幼稚園をお休みする」と言い出した。仕方がないので欠席させ、実家に預けよう…としたところ、喜んでスキップしている。絶対に仮病だ。が、どうしても行かないと泣いて訴えるので、悩んだ挙句休ませた。

 春休みも毎日通園させたし、子どもも疲れるだろうなと反省しつつ、「お友達と仲良くできないのでは?」「このまま毎日休んだら…?」などと悪い妄想が膨らんだ。小児科医として患者さんに分かったようなことを話すが、わが娘のことになるとオロオロしてしまう。

 私は40歳で一人娘を授かった。医師としては中堅だが、出産の時は痛くて大暴れしたし、育児では、母乳にこだわりすぎて脱水症にしたし、風邪を放っておいて入院沙汰になったし…と、医師の経験は全く役に立っていない。唯一良かったのは、診察の合間にお母さん方のお話を聞けることだ。

 育児の先輩から十人十色の意見を聞ける上、仕事柄、長い付き合いの方が多いので話しやすい。また、母親になって「お母さん」の気持ちが、十分に理解できていなかったことにも気付かされている。

 その日もお母さんたちからたくさんのアドバイスをもらい、担任の先生に親身に相談に乗っていただき、「なるほど」と思い直すことができた。周りに聞いてもらえると、客観的に悩める気がする。

 そして翌朝、私の心配をよそに、娘は「お休みしたから元気モリモリ」で登園し、お迎えに行っても一向に帰りたがらなかった。