すぱいすのページ

「あれんじ」 2017年1月14日号

【四季の風】
第36回 冬の島

 マニアというほどではないが、島が好きだ。それも、冬の島がいい。荒々しい冬の怒濤を見ていると、どこか漂泊の思いがして、心が落ちつく。とくに小さい島だと、島全体が冬の海に浮遊しているような感じがいい。

 最近のお気に入りが、湯島。大矢野島から日帰りできるし、人が少なく車もなくて静か。もちろん天草四郎らの談合から高山右近の話まで、物語もいっぱい。島の大根畑でたっぷり冬日を浴びて、故郷にいるように安らいだり、大根畑の戦死者の墓に胸を打たれたりするのもいい。

故郷(ふるさと)にあらねど島の冬あたたか   中正

歩兵たりしを冬草の青青と               中正

水兵にとどく濤音大根畑(なみおとだいこばた)   〃

 それに、やや遠い隠岐島。ここも好きな島で、とくに冬は遠流(おんる)の淋しさが良い。寒い朝、島の人が浜で焚火をしているのを見かけたりすると、すっかり遠くへ来たという思いがする。ここにもたくさんの配流の物語がある。

浜焚火してゐて遠流めきにけり        中正

島抜けし帝(みかど)ありけり冬の鳶(とび)  〃

 クリスマスの頃に行くのが、天草。高浜の宿からア津や大江の夜の教会に行くのだが、夕暮れの散歩道で、高々と一つ残った木守柿(きもりがき)に出会ったりする。木守柿は冬の季語で、まるで翌年のために残してあるような実である。

信仰のたとへば島の木守柿   中正