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「あれんじ」 2016年12月3日号

【元気!の処方箋】
むくみは普通に起きること? それとも病気のサイン?

 足を中心に“むくむ”症状に悩む人がいます。「夕方になると靴が入らない」など不都合を感じつつも、痛みなどを伴わないため、そのままにしていることも多いようです。一方で、「何かの病気がひそんでいるのでは?」という不安もあるでしょう。

 そこで今回は、むくみのメカニズムと考えられる疾患、予防や改善に向けての方法、気を付けたいことなどをお伝えします。(取材・文=坂本ミオ)

【Q1】むくみって何? 細胞の中でも、血管の中でもないところに水が余計にたまって起きます
図1

 人間の体重の60%は水です。いわば人間は、「水の塊」です。その水のうち3分の2は細胞の中にあります。

 ですから、例えば体重が60キロの人の場合、体内に36リットルの水があり、そのうちの24リットルは細胞の中にあるわけです。

 残りの3分の1に当たる12リットルは細胞の外にありますが、これは2つに分けられます。3リットルは血液の成分(血漿(けっしょう))で、9リットルは組織間質にある水(間質液)となります(図1)。

 この組織間質に、水が余計にたまることで起きるのがむくみ(浮腫)です。場合によっては、2〜3リットルほどの水がたまることもあります。

 つまり、細胞の中でも血管の中でもないところに水が余計にたまってしまうのが、むくみの正体なのです。

 多くの人が足のむくみを訴えるのは、重力のため物理的に水が下にたまっていくからです。夕方、靴が入らなくなるというのも、徐々に下に向かってたまっていくからです。ただし、一晩寝るととれる程度のむくみは生理的なものなので、心配する必要はありません。


【Q2】「むくみ」を起こす疾患は? 心臓、腎臓、肝臓、甲状腺の疾患などがあります。原因がはっきりしない突発性浮腫も

 病的なむくみは、血液の循環が悪い、尿量に異常がある、血漿中のタンパク質量が少なすぎる、リンパの流れが悪い場合などに起きます。

 そういう状態が起きる原因として心臓や腎臓、肝臓、あるいは甲状腺や足の血管の問題などが考えられますが、その場合は、原因疾患をつきとめ、治療しなければなりません。

 緊急を要するアレルギーによる浮腫(何かを食べた途端、顔が腫れたり、ハチに刺されて息苦しくなるなど)を除き、早期に治療を要するものは心臓の疾患です。むくみ以外に息切れや、普通ではないだるさなどがあれば、しっかり医師に伝えてください。

 また、腎炎やネフローゼなど腎臓の疾患、肝硬変、甲状腺機能低下症、静脈瘤などが考えられる主な疾患です。そのほか、がんの手術でリンパ節を取り除いた場合にも見られます。

 現在の状態やこれまでの病歴、どんな薬を飲んでいるのか、むくみが起きる体の分布、時間帯などについての話を聞いた上で、尿や血液検査、X線撮影などの検査を行い、診断します。

 しかし、そういった病気がなく、はっきりとした原因がないのにむくみが起きる突発性浮腫と呼ばれるものもあります。


【Q3】「むくみ」の治療は? 原因疾患の治療が第一。食生活や運動などで、予防と改善を
図2

 まずは、むくみの症状を起こしている原因疾患を特定して、その治療をすることが第一です。かかりつけ医に、むくみの状態や、それに付随する症状があればそれを伝えましょう。

 日常的には、塩分を取りすぎないようにする食生活、適度な運動、足のむくみであれば、弾性ストッキングの着用や、1日数回30分程度、足を心臓の高さより上げて横になる、足を下ろした座位を続けず足を定期的に動かす、自分でマッサージする、などで予防や改善を図りましょう(図2)。

 むくみの治療薬の一つに、尿の量を増やす利尿剤があります。しかし、ある種の利尿剤を使い続けると、カルシウム分が減ることが分かっています。閉経後の女性は骨量が落ちているため、より骨がもろくなります。

 また、突発性浮腫では、利尿剤を使うとかえって悪化するものがあります。足のむくみが引き、ややすっきり見えるといった美容的理由で利尿剤を使い続けると、逆効果になることもあります。利尿剤の使用は、医師の指示に従ってください。


【Q4】「むくみ」改善の難しさとは? 原因を特定できないことが多く、他の病気の治療薬の影響で起きることも

 むくみは、客観的に評価するのが難しいことが多い症状です。原因疾患が特定できない突発性浮腫では、何らかの治療が必要なのかどうか分からないこともままあります。

 また、血圧や糖尿病の治療薬や痛み止めの薬の中には、むくみを起こすと言われているものがあります。

 しかし、むくみが薬によるものかの判断は難しく、また、疾患の治療のために服用をやめるわけにはいかないこともあり、むくみの改善を難しくしています。


【おわりに】

 むくむことによる見た目を気にする気持ちは理解できますが、改善のためにと薬に頼り過ぎることがないようしたいものです。
 
 また、女性の場合、妊娠や生理の関係でむくむことがあります。
 
 病気のサインを見逃してはいけませんが、あまり過度に心配しすぎないようしましょう。


話を聞いたのは
熊本大学医学部地域医療・総合診療実践学寄附講座
松井 邦彦 特任教授  
熊本県地域医療支援機構理事地域医療支援センター長
・日本内科学会総合内科専門医
・日本循環器学会専門医