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「あれんじ」 2016年11月5日号

【元気!の処方箋】
依存症とはなにか 〜正しく知って治療と支援を〜

 「依存症」という病名を聞いたことがありますか。少しずつ知られるようになったものの、正しい理解が広まるには至っていないのではないでしょうか。

 そこで今回は「依存症」とは何か、そのメカニズムとともに、どういう治療や支援が必要かをお伝えします。

【はじめに】

 毎日、昼間から酒を飲んで肝臓を悪くしたり、パチンコにはまって借金を繰り返してしまう人がいます。意志や性格の問題として片付けられがちな問題ですが、依存症という「病気」かもしれません。病気であれば意志の力で何とかしようとするのではなく「治療」を考えましょう。


@いろいろな依存症
【図1】依存症の種類

 ある習慣にハマり、それが生活の中心となってしまった結果、家庭や友人関係、仕事などがないがしろになってしまう状態が依存症です。

 アルコールや薬物など物質への依存症がよく知られていますが、パチンコやインターネットゲーム、セックス、買い物など、特定の行為にのめり込む依存症もあります(図1)。


A依存症とはどんな病気か?
【図2】

【症状】

 依存症になると、物質の摂取や行為をほどほどにコントロールすることができなくなります。強い渇望に行動を支配され、お酒が切れると夜中でも飲酒運転して買いに出掛ける、パチンコで負けが込むと借金をしてでも取り返そうとするなど、正常な判断が失われます。

 依存物質を長期間使い続けると、離脱症状や耐性を生じることもあります(図2)。さらに、依存対象に没頭する時間は徐々に長くなり、失職や離婚、友人関係の破綻、健康被害などいろいろな問題がみられるようになります。

 本人は、病的にハマっていることや、そのことによってさまざまな問題が起きていることを認めようとしません。これは「否認」と呼ばれる依存症の特徴です。


【脳内メカニズム】
【図3】
 脳内報酬系は、腹側被蓋野(ふくそくひがいや)から側坐核(そくざかく)を介して前頭葉に至り、脳内物質ドパミンの伝達によって快を感じます。

 スポーツやゲーム、勉強などで達成感や満足感を得た経験は誰でもあるかと思います。この「快」の感情は、脳内報酬系(図3)と呼ばれる神経ネットワーク内で、ドパミンという脳内物質が放出されることによって得られます。

 依存症では報酬系に障害が起こり、ドパミンが出にくくなると言われています。

 その結果、「快」の感情を得るために特定の物質を過剰に摂取したり、行為にのめり込み、さらに「その物質を使いたい」「その行為をまたやりたい」という渇望が起こるようになると考えられています。

 依存症は脳の機能の障害であり、本人の意志の問題ではないのです。


B依存症の治療とは?

【本人への治療】

 アルコール依存症の人が飲酒を適量でコントロールできるようになれば、アルコール依存症が「治った」ことになります。しかし残念ながら、一度依存症になった人がその習慣をほどほどにコントロールできるようになることはありません。断酒に成功して10年間一滴も酒を飲まなかった人でも、結婚式でコップ1杯のビールを飲んだだけで、たちまち元のひどい飲酒状態に戻るといわれます。

 このため、依存症の治療は、依存対象を生涯手放すこと(断酒、断薬、断ギャンブル)を目標にします。これを自らの意志の力だけでやっていくのはとうてい困難ですが、家族や自助グループの仲間、専門医療機関の力を借りながら多くの方が脱依存状態を維持しています。


【家族への支援とアドバイス】
【図4】

 依存症の本人には「否認」がありますので、周囲から勧められても治療を拒否しがちです。そのような場合は、家族だけでも専門の支援機関に相談すると効果があります。

 実は、本人のためを思う家族の行動が、結果的に依存症からの回復を妨げていることがあります。こうした家族の行動を「イネーブリング」(図4)と言います。

 イネーブリングをやめるアドバイスを家族が受けるだけでも本人は回復に近づきますし、本人と家族間のコミュニケーションの悪循環を改善するような指導を家族が受けることにより、本人の治療動機が高まることもあります。


【生きづらさへの共感を】

 依存症の人は何らかの生きづらさを抱えています。常日頃から抱える不安や苦痛を解消するため、手軽に快を得られる方法に頼ってしまいます。しかし、依存症になれば社会的、対人的な問題が必発するので、ますます生きづらくなります。

 周りがそれを無視して「ダメなことだからやめなさい」と言うのは、泳げずに浮き輪にしがみついている人に「浮き輪を放しなさい」と言っているのと同じです。まずは生きづらさに共感を示し、泳ぎ方を教えるような関わり方が求められます。


【メモ】依存症の治療メニュー

・精神療法

 個人精神療法や集団認知行動療法が行われます。専門医療機関では入院して依存症回復プログラムが行われることもあります。

・薬物療法

 アルコール依存症に対する抗酒薬や飲酒欲求低減薬があります。離脱症状を軽減するために安定剤が使われることもあります。

・自助グループへの参加

 自助活動には依存症の回復に必要な自己変容を促す働きがあります。断酒会やダルク(DARC)、アルコホーリクス・アノニマス(AA)、ナルコティクス・アノニマス(NA)、ギャンブラーズ・アノニマス(GA)など、依存対象に応じた自助グループがあります。


C依存症にならないために

 まず、依存症化しやすい物質や行為に手を出さないことです。薬物やギャンブルに手を出さなければ薬物依存症やギャンブル依存症には決してなりません。

 しかし、飲酒やゲーム、買い物など私たちの生活に深く浸透した習慣では、「決して手を出さない」という予防法は現実的ではありません。このような習慣に対しては“ほどほど”を心掛けることです。また、「うさを晴らす」目的でこのような習慣を行うと、依存症のリスクが高まります。あくまでも“日常のささやかな楽しみ”として行うようにしましょう。

【メモ】アルコール依存症になりやすい飲み方

◎うさ晴らしで飲む(ヤケ酒)
◎退屈だから飲む
◎一人で飲む
◎睡眠薬の代わりに飲む(寝酒)
◎強い酒を薄めずに飲む
◎食べずに空腹で飲む


執筆いただいたのは
熊本県精神保健福祉センター
矢田部裕介 次長 
(精神科医)

・精神保健指定医
・日本精神神経学会専門医
・日本老年精神医学会専門医