くまもと芦北療育医療センター
主任薬剤師 永吉ハルカ
私は、創立48年になる重度心身障がい者のための入所施設で薬剤師として働いている。
業務として、ご本人が服用する薬について説明を行う。しかしご本人とはお話することが難しいため、ご家族の面会を待って行うことになる。
先日、熊本市から面会に来られたお母さまに、息子さまのお薬について説明を行った。説明が終了し立ち去ろうとすると、不意にそのお母さまが「私も終活を始めます」と、以下のような話を始められた。
「この子を産んだ後、夫が私の最も腹の立つことをしたので、実家に帰ろうと思いました。実家の兄は『子どもを連れて帰ってこい』と言ってくれましたが、母は『夫を残して帰ってくるな。夫の人間が駄目になるぞ』と離婚を止めたんです。それで、離婚を思いとどまりました。この子はここ(当センター)にお世話になりながら、私は仕事を続けました。無事に退職もでき、夫も亡くなりました。これからはやっと私の終活です。あの時は夫を許せませんでしたが、今は穏やかな心でお墓参りができます」という内容だった。
私は、「ご実家のお母さまは偉い方でしたね。母は強しですね。薬の説明に来ましたが、私が人生を教えていただきました」と返したのだった。
“なんと、長い人生を見つめた気骨ある言葉であることか”
“なんと、娘の母親への厚い信頼であることか”
私もこのような親と子でありたいと強く思った出来事であった。 |