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「あれんじ」 2016年7月2日号

【四季の風】
第34回 緑蔭

「緑蔭」とは、夏の緑したたる木蔭のこと。明治時代の歳時記にはないから、大正以降にできた、ちょっとモダンな感じの季語である。

緑蔭や矢を獲(え)ては鳴る白き的    竹下しづの女

 この句などは、「緑蔭」の代表句の一つ。生き生きとした句で、いかにも弓らしい張った調子も、緑蔭と白の色彩のコントラストも良い。的に当たった音まで聞こえる。

 今回の熊本地震。四月十四日以来この二カ月以上、振り返るとまるで夢の中にいるようだ。

 震度七の激震は春の闇の中。身体全体をずしんと貫くような衝撃と、それ以降の一七〇〇回以上のいつ果てるとも知れない記録的な余震。避難所生活や車中泊と、まるで七十年以上前の防空壕の闇の中。

戦場のごとくに地震(ない)や春深し   岩岡中正

 しかし、気がつけばもう夏。最近は余震も減って、私たちはやっと平常心を取り戻し始めた。外へ出ると、木々はもう緑蔭をなしている。その木蔭で私たちはいま、ほっとひと息をついて、いのちの無事を確かめあっているところである。

緑蔭に命拾ひの立話   土屋芳己

緑蔭に息災のかほ揃ひけり   坂田美代子