はっとり心療クリニック
副院長 有薗 祐子
初めて出会った日、Aさんはプイと横を向き、ため息まじりに悪態をついた。うろたえた。でも何度か会ううちに、優しい目の日があると気づいた。礼儀正しい言葉と振る舞い。「何かホッとできることがあったのかな」と、うれしかった。
Bさんのメモには「この子のせいでこんなに苦しい」と訴える尖(とが)った文字が並ぶ。愛おしさと、その裏返しの怒りと悲しみ。暴れまくる感情で心が破れそうなのを懸命にこらえる姿が透けて見えた。ある日、たわいない親子のじゃれあい遊びの情景が語られた。縛るものから解き放たれ「そうありたい」自分が伸びやかでいられる時の幸せを、きっと味わわれただろうな、と思って幸せだった。
今のクリニックに移って最初のころ、夕方診療が終わると涙があふれた。長い長い物語、八方ふさがりに見える現実。限られた短い時間で私に何が分かる? 何ができる? …激しい無力感で魂が悲鳴を上げていた。
ある日、「腹が立ったけど仕事だから投げ出さずに最後までやった」という話に、「我慢
できて偉かったと思う」と伝えたとき、「そうですよね!」と顔を輝かせて帰っていった人がいた。
ふと思った。自分の力ではどうしようもない現実が山ほどあるけど、出会えた縁を大切にすることはできる。お互いの人生の中の一瞬の接点。であれば、接点である診察室で、私は全力でこの人の力になろう。この人が自分らしい軌跡を描き続けるために、今日ちょっとだけ元気が必要、ということもきっとあると思うから。 |