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「あれんじ」 2016年1月9日号

【四季の風】
第32回 梅林

 私には桜の俳句も多いが、本当は梅の方が好きだ。とくに早梅(そうばい)が好き。寒風の中、他の花に先駆けて凜(りん)と咲く潔さが良い。梅には、どこか文人の香りがする。晋の武帝が学問に親しむと花が開き、学問をやめると花が開かなかったという故事から、好文木(こうぶんぼく)とも言う。

 白梅と紅梅のどっちが好きかと聞かれれば、饒舌な紅梅より静かな白梅。ちなみに、ワインも白。

紅梅は語り白梅聴いてゐる  岩岡中正

紅梅は語り白梅聴いてゐる  岩岡中正

勇気こそ地の塩なれや梅真白 中村草田男

 熊本で梅といえば、島崎。何といっても歴史がある。俳句は何でも季節に先駆けることを良しとするが、早咲きの梅を求めて歩くことを「梅探(さぐ)る」とか「探梅(たんばい)」と言って、これを楽しむ。

聖鐘に一村はことごとく梅  中正

 叢桂園の裏の竹林を上がれば、そこはもう百梅園で、小さな御堂のたたずまいが何ともいえずあたたか。百梅(ひゃくばい)園は、細川藩の儒学者で詩人の兼坂止水(かねさかしすい)の塾の跡で、止水は梅が大好き。やっぱり梅は好文木だ。満開のころ、あふれるような早春の日ざしを浴びてこの山坂がちの梅林を歩けば、無数の梅の花の精が、まるで漣(さざなみ)のように寄せてくるのである。

あたたかやこの世の隅の阿弥陀堂 中正

梅林を行きて渚をゆくごとし   中正