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「あれんじ」 2015年12月5日号

【元気!の処方箋】
かかりやすく、症状が出にくい高齢者の肺炎

 高齢者への肺炎球菌ワクチンの定期接種のお知らせを、テレビコマーシャルなどで目にする機会が増えました。それだけ予防が大事な高齢者の肺炎について、お伝えします。

はじめに
【図1】死因別にみた死亡率の移り変わり
厚生労働省:平成27年我が国の人口動態(平成25年までの動向)より

 肺炎による死亡は戦後いったん減少しましたが、1973(昭和48)年以降は増加に転じ、2011(平成23)年には脳血管障害を抜いてわが国の死亡原因第3位となりました(図1)。
 また、肺炎による死亡の95%以上が65歳以上の高齢者となっています(図2)。高齢者にとって肺炎は命に関わる非常に重要な疾患です。


【図2】肺炎の年齢階級別死亡率


【肺炎の症状】高齢者では症状が出にくい!

 肺炎の症状としては咳、痰、発熱、息苦しさなどがみられますが、かぜや気管支炎でも同様の症状がみられるため自覚症状だけで肺炎と区別することは困難です。肺の聴診や胸部レントゲン写真、血液検査などで診断します。さらに喀痰(かくたん)検査など原因微生物を調べる検査を追加します。

 高齢者では肺炎になっても咳、痰、発熱などの典型的な症状が出にくいという特徴があります。「食欲がない」「元気がない」「ボーっとしている」といった訴えで受診し、肺炎が見つかることもあります。

 また、このような症状の乏しい高齢者の肺炎では、診断時に脱水症や敗血症を合併して重症になっていることがあります。いつもと比べて様子がおかしい場合は早めにかかりつけ医などに相談しましょう。


【肺炎の原因】高齢者が肺炎にかかりやすい理由
肺炎にかかりやすい、重症になりやすい人

□ 日常生活の活動性が低下している
□ 現在もタバコを吸っている
□ 虫歯や歯周病などがあり、口腔内の衛生状態が不良である
□ 食事中に「むせ」や咳込みを自覚することがある
□ 呼吸器疾患(気管支喘息、COPD/肺気腫、気管支拡張症、
  結核後遺症、間質性肺炎など)がある
□ 脳血管障害(脳卒中)や神経疾患の既往がある
□ 認知機能の低下(認知症、高次脳機能障害など)がある 
□ 頭頸部がん(舌がん、咽頭がん、喉頭がんなど)の既往がある
□ 食道がん、胃がんなどの手術歴がある
□ コントロールが不十分な糖尿病がある
□ ステロイド内服や抗がん剤治療を受けている
□ 慢性腎不全(透析含む)、肝硬変、心不全などの持病がある
□ 過去に肺炎に罹患したことがある


※どれかひとつでも該当する人は要注意。
 該当項目が多いほど危険度は高くなります。

 高齢者の肺炎では「誤嚥性肺炎」が多いことが知られています。誤嚥性肺炎の発症には水や食事を飲み込む能力の低下と咳反射(食べ物や液体などの異物が気管に入った時に、異物を体から出そうとする反射)の低下が大きく関わっています。また、加齢による免疫力低下も影響します。

【嚥下(えんげ=飲み込み)機能の低下】

 嚥下は多くの筋肉が関係する非常に複雑な動作です。加齢により機能が低下すると、食べ物や唾液が間違って気管や肺へ入りやすくなるため肺炎を起こしやすくなります。食事中のむせや咳き込みがある方は要注意です。

 特に脳血管障害などの神経疾患や頭頸部癌などがあった方は嚥下機能の障害が出やすくなります。また、不顕性誤嚥といって、嚥下困難の自覚がない人でも夜間睡眠時などに気付かずに少量ずつ誤嚥が起こることがあり、肺炎の原因となります。

【咳反射の低下】

 高齢者では咳反射の反応が鈍くなるため、気管支に食べ物や唾液が入ってきても十分な咳反射が起こらないことがあります。

 加齢による筋肉量減少や筋力低下も咳の力の低下につながります。このような場合、異物や痰を上手に排除することができず、肺炎が起こりやすくなります。

【免疫力の低下】

 加齢による免疫機能低下により、高齢者では感染症に対する抵抗性が弱いと考えられます。

 さらに、高齢者では糖尿病などの持病のある方が多く、その病気の影響や治療の影響(とくにステロイドホルモン剤や抗がん剤治療)でも肺炎発症と重症化のリスクが高まります。



【肺炎の予防】重要な誤嚥予防とワクチン接種

 高齢者の肺炎予防では、「誤嚥防止」と「ワクチン接種」が特に重要です。

【誤嚥防止】

1.口腔ケア
 歯磨き、うがい、入れ歯の手入れをしっかり行いましょう。

2.お酒の飲み過ぎ、睡眠薬の多用に注意
 お酒を飲んで寝たり、睡眠薬を使いすぎると反射が鈍くなるため、睡眠中の誤嚥のリスクが増加します。

3.食事の工夫
 嚥下機能低下がある方の場合は、食事形態の変更や食物にとろみをつけることなどにより、誤嚥を減らすことできます。

4.食後や就寝時の姿勢
 食道がんや胃がんの手術後の方、食道れっこうヘルニアや逆流性食道炎などの方は、食事後しばらくは横にならず上半身を起こした姿勢をとることで消化管からの逆流を防止し、肺炎を予防します。就寝時も枕を高くして不顕性誤嚥などを防ぐようにします。

【ワクチン接種】
 高齢者の肺炎予防に推奨されるワクチンは肺炎球菌ワクチンと季節性インフルエンザワクチンです。

 高齢者への肺炎球菌ワクチン接種は平成26年10月より定期接種となりました。主に65歳以上が対象ですが、生年月日により接種できる年度が決まっているため、定期接種の機会を逃さないように注意しましょう。

 季節性インフルエンザワクチンは流行株が変化するため、流行前の11月中には毎年接種を受けるようにしましょう。


【終わりに】

 高齢者の肺炎は加齢による身体機能の低下と深く関係しているため、長生きすればするほど肺炎のリスクと向き合う必要があります。肺炎にかかったことがない方も早期から積極的に体を動かして体力を維持し、肺炎予防に心がけましょう。


【メモ】高齢者は結核にも要注意

 現在の国内での新規結核患者の半数以上は65歳以降の高齢者です。高齢者の結核はその多くが、若いころに感染していた結核菌が長年の休眠状態から覚めて活動を再開し発病する「内因性再燃」と考えられます。

 現在70歳以上の高齢者では半数以上の方が若いころに結核の感染を受けた既感染者と推定されています。加齢や病気による体力、免疫力の低下や栄養状態の悪化により眠っていた結核菌が増殖をはじめ、発病に至ります。結核は普通の肺炎よりもさらに自覚症状に乏しく、発見が遅れがちになります。咳や痰が数週間以上持続する場合には医療機関の受診をおすすめします。


執筆いただいたのは

熊本大学医学部附属病院
呼吸器内科

岡本 真一郎 助教

◎医師・医学博士
◎日本内科学会 総合内科専門医
◎日本呼吸器学会 
 呼吸器専門医・指導医
◎日本感染症学会 
 感染症専門医・指導医
◎日本化学療法学会 
 抗菌化学療法認定医・指導医