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「あれんじ」 2010年8月7日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
〜人工透析や、死亡率の高い脳血管性疾患・心疾患を防ぎましょう〜 CKD(慢性腎臓病)にご注意!

 「CKD」という病気をご存じですか? 腎機能低下や腎障害を示す所見が慢性的に続く「慢性腎臓病」のことです。耳慣れないため、自分とは関係ないと思いがちですが、実に成人の8人に1人、熊本市では6〜7人に1人がかかっている病気です。ほとんど自覚症状がないまま進行するため、定期的な健診が早期発見のポイントとなるCKD。病気についての情報と、熊本市が進める対策事業についてお伝えします。

症状がないまま進行 健診や検査による早期発見が大事

 腎臓といえば、「体の中で不要になった老廃物を尿として排出する」機能が最も知られていると思います。しかしそれ以外にも、血圧のコントロールや血液の赤血球数の調整、体内のカルシウムやリンの調整…など、さまざまな重要な働きをしています。
 この腎臓の働きが慢性的に低下している状態を、原因疾患を問わずCKD(慢性腎臓病)と言います(下記定義参照)。

【CKD(慢性腎臓病)の定義】
❶タンパク尿や血尿が陽性、もしくはほかの検査で腎臓の異常がある
❷糸球体ろ過量(※1)が60ミリリットル/分未満
❶、❷のいずれか、もしくは両方が3カ月以上持続する

【※1】 腎臓内にある糸球体からろ過される原尿の量。正常値は100ミリリットル/分程度。加齢に伴い低下する

 CKDは、人工透析が必要になる末期腎不全や、死亡率の高い脳血管性疾患、心疾患の大きな危険因子となります。「この病気の難しいところは、ほとんど症状がないまま進行すること。症状が出たときは、もう人工透析を始めなければならない段階に来ていることも多いのです」と江田幸政先生。
 それだけに、特定健康診査やかかりつけ医による尿検査や血液検査で早期に発見することが大事です。腎臓に障害や異常があると、尿中にタンパクが出てきます。また、日本腎臓学会は、CKDの判断に必要な糸球体ろ過量の実測がとても大変なため、血清クレアチニン濃度と性別、年齢から糸球体ろ過量を推算する方法を確立。血液検査で血清クレアチニン濃度を測定すれば、「推算糸球体ろ過量(eGFR)」が計算できるようになりました。病院によっては自動計算してくれるところや、数字を入力すれば自動計算できるウェブサイトもあります(※2)。



【※2】eGFRを調べるには…
熊本市ウェブサイトトップページ
http://www.city.kumamoto.kumamoto.jp/
「健康・福祉・介護」

「健康・医療」

「熊本市の健康課題CKD」

「腎機能をチェックしよう」

あるいは直接
熊本市の健康課題CKD(慢性腎臓病)のページ
http://www.city-kumamoto-ckd.hinokuni-net.jp/
「腎機能をチェックしよう」


啓発と発見、段階に応じた対策を 平成21年度からスタートした熊本市CKD対策事業

 末期腎不全による人工透析患者は全国的に増加しています。中でも、熊本市はその割合が全国平均の1・4倍、中核市の中で人工透析実施率が第1位と、全国で最も多い状況です(※3)。
 そこで熊本市では、昨年度から

❶平成26年度までに、全国平均を目指し、年間の新規人工透析者約300人を約200人以下に減少させる

❷CKDが大きな原因である心血管疾患の発症・進展の予防を進める

という目標を掲げ、熊本市医師会や腎臓専門医などの関係機関とともに「CKD対策事業」に取り組んでいます。
 その内容は、

1. 啓発活動とそれによる発見
特定健康診査の受診率向上を図り、腎機能検査の実施率を高めたり、市民へのCKDに関する情報提供など

2. 要注意者がCKDになるのを予防する取り組み(生活習慣改善指導など)
CKD予防教室や個別指導の実施や、予防活動の仕組みづくりなど

3. 軽度のCKD患者が中等度になるのを予防する取り組み(早期の受診勧奨)
「病診連携医」登録制度(※4)やかかりつけ医での食事指導実施体制の構築など

4. 中等度のCKD患者が高度・透析に移行するのを防止する取り組み
特定健診の受診結果、中等度以上の要医療者の受診勧奨や、かかりつけ医と腎臓専門医の連携システムの構築など

と、いうもの。啓発活動はもちろん、軽度から重度まで段階に応じ、進行させない総合的な対策がなされています。さらに、

5.CKD悪化防止の総合的な推進体制の整備など

を加えて、「病診連携」「保健指導」の対策推進会議や、保健師、栄養士などの医療従事者研修会を行っています。

【※4】CKD対策推進「病診連携医」登録制度
 熊本市のCKD対策推進に協力できるとしたかかりつけ医を、熊本市CKD対策推進「病診連携医」として登録。登録医は必要時、腎機能を検査し、基準に基づいた当該患者を腎臓専門医へ紹介。専門医と連携して治療を行う。現在、登録医は227人。※2で紹介している熊本市ウェブサイトの健康課題CKD(慢性腎臓病)のページで、校区ごとに紹介されている。

【※3】熊本県のCKDに関するデータ

■熊本県内の人工透析患者数5656人(人口100万対3120人)(2008年)
■人工透析実施率(人口100万対)は、過去10年以上熊本県が第1位
■熊本市国民健康保険の医療データを分析〜
○生活習慣病の中で最も医療費が高いのは腎不全。次いで高血圧症。
○疾病別患者割合では、高血圧性疾患は男女ともに1位。糖尿病は男性2位で、全体でも6位
■死因別死亡率の政令市比較(熊本市含め17市)では、悪性新生物(10位)より脳血管疾患(7位)と心疾患(8位)の順位が高い


メタボリック症候群と重なるリスク 健康的な生活と健診で、予防・発見を

 血清クレアチニン濃度によってeGFRが出せるようになったため、比較的簡易にCKDの発見ができるようになった一方で、健康保険事業主(保険者)によっては特定健診の項目に血清クレアチニンが入っていないという現実があります。熊本市のCKD対策事業を担当する健康福祉政策課健康づくり推進室の本佳代子主査は、「熊本市の国民健康保険の特定健診では、項目に血清クレアチニンを追加しており、タンパク尿とeGFRから、保健指導や受診勧奨につなげています。さまざまな健診に、血清クレアチニンを項目に加えていただけるよう働きかけています」と話します。
 江田先生によると、茨城県の住民健診データから、高血圧、(2+)以上の血尿、糖尿病、肥満、喫煙、そして高年齢が、CKDになる危険要因として重要なものと考えられているそうです。「年齢以外は治療や対応が可能なものばかり。その上、ほとんどはメタボリック症候群のリスクと重なります」。つまりCKDの予防は、「規則正しい生活、適度な運動、塩分を取りすぎない食事など、ごく当たり前な健康的な生活を送ること」。また、加齢というリスクについては、血圧の管理をきちんとすることが大事だと言います。「しかし、そうして気を付けて暮らしても病気になる人はいます。そのために、健診や検査で早期発見することが重要なのです」。
 そしてもしCKDの診断を受けたら、病期に応じて生活習慣の改善や血圧、血糖、脂質、貧血の管理などを行います。早期発見と
治療で、重症化し人工透析や腎移植といった段階になることや、心血管疾患の発症を防ぎたいものです。
 「症状が出ないからこそ気を付けなければならない」という病気の一つであるCKD。定期的な体のチェックがいかに大切であるか、改めて考えさせられました。


今回教えてくださったのは…
仁誠会クリニック 光の森 
医師 江田(こうだ)幸政 氏