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「あれんじ」 2015年7月1日号

【四季の風】
第30回 梅雨

 梅雨はうっとうしい。でも、この雨が生命を育む。「梅雨」は、私たち稲作民族には大切な季語。ちょっと考えただけでも、最初の「走り梅雨」から、時には降らずに心配な「空(から)梅雨」、ひときわ激しく降る「荒(あら)梅雨」や「男(おとこ)梅雨」、それに末期の「送り梅雨」まで、関連する季語も色々。この梅雨のひと月、私たち生あるものは皆、雨音の中で暮らすのだ。

梅雨の蝶水より生まれたるわれら     岩岡中正

濡れそぼつとは子雀のやうにかな     ″       

 梅雨のころは犬も哀れで、野良犬ならびしょ濡れでさ迷うほかない。

梅雨の犬で氏(うじ)も素姓(すじょう)もなかりけり    安住 敦

 わが家の犬は、ふだんはとびきり元気なのだが、梅雨のころはいつも、観念して軒下でじっと冥想していた。

梅雨の犬眉のあたりが哲学者   岩岡中正

 でもこの犬も老いて癌になり、もう手の施しようもなくなった梅雨の夜、雷雨のさなかに亡くなった。
 以来、ペットは飼わないことにしているが、昨日二階のベランダからふと松の木を見ると、目の前の枝でキジバトが雨の中じっと真剣な目をして卵を抱いていた。これからしばらくは、気がかりな日が続くことになる。