文字サイズ
【四季の風】第30回 梅雨
濡れそぼつとは子雀のやうにかな ″ 梅雨のころは犬も哀れで、野良犬ならびしょ濡れでさ迷うほかない。 梅雨の犬で氏(うじ)も素姓(すじょう)もなかりけり 安住 敦 わが家の犬は、ふだんはとびきり元気なのだが、梅雨のころはいつも、観念して軒下でじっと冥想していた。 梅雨の犬眉のあたりが哲学者 岩岡中正 でもこの犬も老いて癌になり、もう手の施しようもなくなった梅雨の夜、雷雨のさなかに亡くなった。 以来、ペットは飼わないことにしているが、昨日二階のベランダからふと松の木を見ると、目の前の枝でキジバトが雨の中じっと真剣な目をして卵を抱いていた。これからしばらくは、気がかりな日が続くことになる。