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「あれんじ」 2015年6月6日号

【元気の処方箋】
心配なことがあれば、早めに相談しよう 誰もがなるかもしれない病気 アルツハイマー病

 社会の高齢化に伴い増えている認知症。中でも多いのが、アルツハイマー病による認知症です。今回は、アルツハイマー病の症状や診察、治療についてお伝えします。

はじめに

 平成25年厚生労働省の調査報告によると、認知症高齢者は現在、日本におよそ462万人いるのではないかと推定されています。今後高齢者の人口が急速に増えるにつれて、認知症高齢者もさらに人数が増えることが予測されています。

 認知症は、記憶障害や判断力の低下などのために、それまでできていた社会生活や身の回りの基本的な生活習慣ができにくくなった状態を示す症状名(症候群)です。

 いろいろな病気で認知症が生じますが、アルツハイマー病は認知症を引き起こす代表的な病気です。私たちの外来患者さんで調べてみると、60%近くがアルツハイマー病の患者さんで占められています(図1)。アルツハイマー病は進行性の病気で、初期(第1期)、中期(第2期)そして進行期(第3期)と進みます。


アルツハイマー病の症状

 アルツハイマー病の症状は、大きく、「認知機能障害」と「心理・行動障害」に分けられます。 「認知機能障害」は病気の経過を通して存在し、治療は困難で、少しずつ進行していきます。

 一方、「心理・行動障害」は、人によってさまざまで、すべての患者さんに見られるわけではありません。治療や対応方法の工夫で症状が治まったり、あるいは病気が進行することで症状が消えたりすることもあります。

 症状をよく観察し、認知機能障害と心理・行動障害とを見極めることは、介護やケアの面にも役に立ちます。

 次に、主な症状について見ていきます。


【1】認知機能障害

◎記憶障害

 程度の差はありますが、ほぼすべての患者さんに見られます。昔のことはよく覚えているのに、最近の出来事、新しい出来事を覚えることが苦手になり、約束や用事を忘れたりします。

◎判断力、実行力の低下

 ものごとを的確に判断したり、料理や作業の段取りを考えたりする力が低下してきます。そのため、料理に時間がかかったり、仕事の効率が低下したりします。

◎見当識の障害

 今日の日付や今の時刻、自分が今いる場所、周囲の人物などを正しく認識するこ とを、見当識といいます。

 一般的に、〈時間→場所→人物〉の順に見当識の障害が現れます。


【2】心理・行動障害

◎うつ、不安

 うつになると、どこかさえない表情をしていたり、涙を流したり、「自分はいないほうがいい」「いっそ死んだほうがいい」などと発言することがあります。

 また、常に家族の姿が見えていないと落ち着かず、いつも家族の後をついて回るなどの不安の症状を示すことがあります。認知症の初期や中期によく見られます。

◎意欲低下・無関心

 うつとは違い、やる気のなさのため、あるいは、自分や周囲に対する関心が薄れるため、家事や炊事、外出、身繕いなどをしなくなります。

 ひどい時には、着替えや入浴もおっくうになり、何日も入浴をしないこともあります。

◎妄想

 事実でないことを、あたかも本当であるかのように信じ込み、訂正が利かない考えを、妄想といいます。

 財布や印鑑を大事にしまいこんでしまい、その後、しまった場所を忘れてしまって見つけ出せなくなると、「誰かが盗んだ」と思い込む「ものとられ妄想」という症状がしばしば見られます。

 多くは一番身近で親身にお世話をしている介護者に妄想の対象が向かいます。本人は本気で信じ込んでいるため、近所にいかにも本当かのように言い回ったりして、介護者が精神的に追い詰められることもあります。

 認知症の中期前後で起こり、病気が進行すると治まってくることが多い症状です。

◎不眠・夜間の興奮

 人は誰でも、高齢になると昼夜の睡眠のリズムが崩れやすくなりますが、認知症では昼夜の逆転が起こりやすくなります。夜間落ち着かず、一晩中ごそごそ作業をするなど、夜間の不眠は介護している家族の大きな負担になります。時には、ささいなことで怒り出す、興奮や不穏といった症状を夜間に示します。

◎徘徊

 認知症中期から進行期になると、家族が目を離した隙に家から離れてしまい、自分の家に帰ることができなくなる徘徊の症状が見られます。

 本人は、自分の家に帰りたい一心なのですが、記憶障害や見当識障害などの認知機能障害と不安や焦りなどの心理症状とが複雑に絡み合って、結果的に道に迷ってしまいます。


アルツハイマー病の診察と治療
出典:http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_recog.html
厚生労働省ホームページ、一部改編

 診察は、主に問診、神経学的診察、精神医学的評価、心理検査、画像検査からなります。いつごろからどのような症状が見られ、その後どのように変わっていったのか、という症状の経過はとても重要です。

 血管性認知症など他の認知症と見分けるためには、神経学的診察が欠かせません。また、患者さんや家族の生活の質(QOL)を維持するためには、精神症状や行動障害の評価も必要です。その後、心理検査、頭部CTやMRI、脳血流検査などの画像検査を用いながら診断していきます。

 残念ながら、根本的に治す治療法は確立されていませんが、認知症の進行を遅らせる薬がわが国でも使用されています。また、薬だけでなく、適度な運動、バランスの良い食事、知的好奇心へ働きかけるレクリエーションなどのよい生活習慣を心がけること、すなわち一般的な生活習慣病の予防法は、認知症の予防や進行を遅らせることに効果的です(図2)。


終わりに

 アルツハイマー病も、現在は薬による対応がある程度可能になっています。また、各地で運動療法や認知症予防の活動が盛んです。

 しかし、それらの効果は早期発見・早期治療ができた時に得られやすいものです。

 私たちの外来でも、認知症の手前の状態である「軽度認知障害」と診断された外来患者さんが20%あり(図1)、早めの受診を希望される患者さんやご家族が増えてきています。

 アルツハイマー病は、高齢になれば、誰もがなるかもしれない病気です。「わたしは大丈夫」ではなく、心配なことがあれば、早めに相談しましょう。

 相談窓口は、各市町村の包括支援センターのほか、まずは、近くのかかりつけ医にご相談く
ださい。


今回執筆いただいたのは

熊本大学大学院
生命科学研究部
神経精神医学分野

石川 智久 助教

神経精神科医、博士(医学)
専門は、神経心理学、老年精神医学。