【四季の風】
第29回 花冷(はなび)え
季語は面白い。「寒さ」といえばもちろん冬の季語だが、春になっても寒いことを「余寒(よかん)」や「春寒(はるさむ)」という。長洲海岸で隠岐の島を思って作った次の句のように、春だからこそ、かえってふっと心淋しくなる寒さである。 |
春寒の浜に遠流(おんる)の思ひあり 岩岡中正 |
さらに春たけなわ、桜も咲くころの寒さを「花冷(え)」という。俳句で「花」といえば桜だから、この「花冷」にも、そこはかとない華やぎがある一方で、どこか頼りなげな淋しさやあわれが漂う。 |