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「あれんじ」 2015年4月4日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
女性に多い 鉄欠乏性貧血

 鉄欠乏性貧血は、しばしば耳にするありふれた病気です。女性に多く、通常は薬や食事で鉄分を補うことで改善しますが、なかには重大な病気が潜んでいる可能性があり、注意が必要です。

 今回は、侮ってはならない鉄欠乏性貧血についてお伝えします。

はじめに
【図1】末梢血塗沫標本

 赤血球は、その容積のほとんどがヘモグロビンと呼ばれる鉄を含むタンパク質で占められています。ヘモグロビンは酸素と結合する性質があるため、肺から体内に取り込まれた酸素は直ちに赤血球内のヘモグロビンと結びつき、赤血球が血流に乗って身体の隅々まで運ばれることで、効率よく酸素を末梢組織まで送り届けることができます。

 赤血球はいわば、酸素運搬に機能が特化した細胞といえます。もし赤血球あるいはヘモグロビン量そのものが不足すると、十分な酸素が全身に行き届かず、組織は酸素欠乏状態に陥ります。これが貧血という病態の本質です。

 貧血はさまざまな原因で起こりますが、なかでも鉄不足による貧血が最も頻繁にみられます。その場合、血液を顕微鏡で観察すると、図1のように鉄の色である赤血球の赤色が薄くなります。

 この鉄欠乏性貧血は女性に多く、月経血による鉄の喪失に加えて、近年のダイエット志向による鉄の摂取不足が患者増加に拍車をかけています。

 他にも慢性の出血を引き起こすような疾患、例えば消化管の潰瘍や悪性腫瘍も鉄欠
乏性貧血の原因となりえます。特に男性や閉経後の女性では、このような基礎疾患の存在に注意を払う必要があります。


鉄欠乏性貧血とは 生体内鉄代謝の概要
【図2】鉄欠乏貧血の発生過程

 鉄は生体の維持に不可欠な金属元素であり、細胞の増殖やエネルギー調達などに重要な役割を果たしています。生体内の総鉄量は3〜4gとされ、その65%はヘモグロビンと結合して赤血球内に存在し、30%はフェリチン蛋白と結合し肝臓などの細胞内に貯蔵されています(図2)。

 血清中に存在する鉄はトランスフェリン蛋白と結合していて、全体のわずか1%ですが、その濃度を測定することで診断に役立っています。

 骨髄で産生された赤血球は、末梢血に放出されて約120日間の働きを終えて脾臓(ひぞう)で処理されます。その際にヘモグロビンから鉄が回収され、血液中のトランスフェリンによって骨髄に運ばれて赤血球造血に再利用されます。

 このように効率の良い鉄リサイクルシステムによって、鉄欠乏は起こりにくくなっています。

 通常は、消化管粘膜上皮、皮膚、毛髪など脱落する組織に含まれるわずかな鉄が毎日喪失しており(1日に1mg)、その分を食事で補えれば鉄不足にはなりません。


鉄欠乏の発生過程

 しかし、月経血など出血があり鉄喪失が増える場合や、成長期の小児や妊婦など鉄需要が増す場合には、食事からの鉄分摂取が間に合わず鉄欠乏に陥りやすくなります。

 最初は鉄が不足しても、貯蔵鉄から鉄が血中に供給されるので、貧血になることはありませんが、貯蔵鉄がなくなってしまうと赤血球造血に支障が出て貧血が進行します(図2)。


(1)主な症状

 貧血の症状を表1にまとめました。酸素を多く必要とする臓器(脳、心筋、骨格筋)に酸素欠乏の症状が現れ、さらに酸素不足を補うために呼吸は酸素を多く取り込み、心臓はたくさんの血液を送り出そうとするので、このような生体反応に伴う症状が認められます。「最近、頭痛や疲労感を自覚する。坂道や階段を昇ると息切れや動悸が激しくて休まないといけない」といった訴えが典型例です。

 さらに、鉄欠乏特有の症状を認めることがあります。新陳代謝が盛んな粘膜や皮膚にも鉄不足による影響が現れ、舌から食道にかけた粘膜の炎症により食物が飲み込みにくくなったり(嚥下困難)、爪がスプーン上に反り返る匙(さじ)状爪を認めることがあります。


(2)診断
【表2】ヘモグロビン濃度に基づく貧血の診断基準

【まず貧血の診断基準を満たすか調べます】

 貧血かどうかは1デシリットル当たりの血液に含まれるヘモグロビン量(ヘモグロビン濃度)によって判断します(表2)。年齢や性別あるいは妊娠の有無によって基準値が異なることに注意してください。

【次に鉄代謝パラメーターを測定します】

 鉄欠乏かどうかを診るには、鉄代謝を反映するパラメーターを検査する必要があります。血清鉄濃度、不飽和鉄結合能(UIBC=鉄と結合していないトランスフェリン濃度に相当)、血清フェリチン濃度(全身の細胞内の貯蔵鉄・フェリチン量とよく相関)の3点セットで測定し、血清鉄低値、UIBC高値、血清フェリチン低値であれば鉄欠乏性貧血と診断できます(図2)。

 血清鉄が低値を示しても、血清フェリチンが高値を示す場合は、鉄欠乏による貧血ではありません。このような貧血は、慢性疾患(炎症性疾患や悪性腫瘍など)に伴うことが多く、基礎疾患を治療しないと、鉄剤を投与しても貧血はよくなりません。

【鉄欠乏の原因を調べることが重要です】

 鉄欠乏性貧血の原因はさまざまです。閉経前の女性、成長期の小児や妊婦の多くは、生理的な理由による鉄不足が原因と考えられるので、鉄補充により鉄不足は解消されます。

 しかし、何らかの病気がもとになって鉄が喪失する場合は、その原因となる疾病(消化管出血、過多月経、子宮筋腫など)を特定することが重要で、基礎疾患を治療しない限り鉄欠乏を繰り返すことになります。

 もし鉄欠乏性貧血と診断されたら、原因精査のために専門医を受診すべきかどうか、主治医とよく相談してください。


(3)治療

【基礎疾患の治療と鉄剤内服が基本】

 貧血が高度でも、通常は輸血を行うことはなく、まず鉄剤の内服を開始します。
数日で網赤血球(若い赤血球)が増加し、骨髄の赤血球造血が改善したことが分かります。

 6〜8週でヘモグロビン濃度は正常化し貧血は改善しますが、貯蔵鉄量(血清フェリチン濃度)は低いままであることが多く、これが正常化するまでは鉄剤を飲み続けます。 通常は数カ月から半年くらいは必要です。もちろん、基礎疾患がある場合は、その治療も並行して行います。

【潜在的鉄欠乏は食事やサプリメントで改善を】

 20歳〜49歳の女性の約2割に鉄欠乏性貧血を認め、約4割は鉄欠乏状態という報告もあります。日頃から鉄分を含む食事に心掛け、極端なダイエットは控えましょう。鉄分が多く、鉄吸収も良好な食材は、肉類(豚、牛、鶏)、レバー、赤身の魚肉などですが、脂肪の過剰摂取が気になる場合はサプリメントも鉄補給の有効な手段となります。


【注意】鉄過剰は身体に毒である

 鉄剤の内服で一つだけ注意が必要なのは、漫然と内服を続けて鉄過剰にならないようにするということです。血清フェリチンが高値にもかかわらず鉄剤を飲み続けると、鉄過剰症という新たな病気を引き起こし、肝機能や心機能の低下を招く可能性があります。特に慢性疾患をお持ちの方は、血清フェリチンが高値でも血清鉄が低値になりやすいため、鉄欠乏と間違わないよう注意が必要です。


今回執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院
血液内科•感染免疫診療部
川口 辰哉 准教授 
・医学博士
・日本血液学会血液専門医•指導医
・日本内科学会総合内科専門医•指導医