【専門医が書く 元気!の処方箋】
女性に多い 鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、しばしば耳にするありふれた病気です。女性に多く、通常は薬や食事で鉄分を補うことで改善しますが、なかには重大な病気が潜んでいる可能性があり、注意が必要です。 今回は、侮ってはならない鉄欠乏性貧血についてお伝えします。 |
はじめに |
【図1】末梢血塗沫標本
赤血球は、その容積のほとんどがヘモグロビンと呼ばれる鉄を含むタンパク質で占められています。ヘモグロビンは酸素と結合する性質があるため、肺から体内に取り込まれた酸素は直ちに赤血球内のヘモグロビンと結びつき、赤血球が血流に乗って身体の隅々まで運ばれることで、効率よく酸素を末梢組織まで送り届けることができます。 |
鉄欠乏性貧血とは 生体内鉄代謝の概要 |
【図2】鉄欠乏貧血の発生過程
鉄は生体の維持に不可欠な金属元素であり、細胞の増殖やエネルギー調達などに重要な役割を果たしています。生体内の総鉄量は3〜4gとされ、その65%はヘモグロビンと結合して赤血球内に存在し、30%はフェリチン蛋白と結合し肝臓などの細胞内に貯蔵されています(図2)。 |
鉄欠乏の発生過程 |
しかし、月経血など出血があり鉄喪失が増える場合や、成長期の小児や妊婦など鉄需要が増す場合には、食事からの鉄分摂取が間に合わず鉄欠乏に陥りやすくなります。 |
(1)主な症状 |
貧血の症状を表1にまとめました。酸素を多く必要とする臓器(脳、心筋、骨格筋)に酸素欠乏の症状が現れ、さらに酸素不足を補うために呼吸は酸素を多く取り込み、心臓はたくさんの血液を送り出そうとするので、このような生体反応に伴う症状が認められます。「最近、頭痛や疲労感を自覚する。坂道や階段を昇ると息切れや動悸が激しくて休まないといけない」といった訴えが典型例です。 |
(2)診断 |
【表2】ヘモグロビン濃度に基づく貧血の診断基準
【まず貧血の診断基準を満たすか調べます】 |
(3)治療 |
【基礎疾患の治療と鉄剤内服が基本】 |
【注意】鉄過剰は身体に毒である |
鉄剤の内服で一つだけ注意が必要なのは、漫然と内服を続けて鉄過剰にならないようにするということです。血清フェリチンが高値にもかかわらず鉄剤を飲み続けると、鉄過剰症という新たな病気を引き起こし、肝機能や心機能の低下を招く可能性があります。特に慢性疾患をお持ちの方は、血清フェリチンが高値でも血清鉄が低値になりやすいため、鉄欠乏と間違わないよう注意が必要です。 |
今回執筆いただいたのは |
熊本大学医学部附属病院
血液内科•感染免疫診療部 川口 辰哉 准教授 ・医学博士 ・日本血液学会血液専門医•指導医 ・日本内科学会総合内科専門医•指導医 |