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「あれんじ」 2015年2月7日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
治療、適度の運動で進行を防ぎたい パーキンソン病

 手足のこわばりや震えなどの症状が知られているパーキンソン病。進行に伴い症状が重くなったり、異なる症状が現れたりするだけに、早めの診断と治療が大事です。

 今回はパーキンソン病の原因や症状、治療などについてお伝えします。

パーキンソン病とは

 1817年に初めてこの病気を報告した英国の医師ジェームズ・パーキンソンの名前にちなんでパーキンソン病と呼ばれるようになりました。

 本症の有病率は人口千人当たり1人。60〜70歳代の発症が最も多く、70〜80歳では100人に1人の有病率です。わが国では人口の高齢化とともに患者数が増えており、平成25年3月の時点でパーキンソン病による特定疾患医療受給者は全国で12万人に達します。


症状

 初発症状は安静時の震えが多く(約70%)、ついで小刻み・すり足歩行(12%)、手足のこわばり(10%)、動作緩慢(10%)などが続きます。

 片側(左あるいは右)の上肢から始まり、同側の下肢、ついで反対側の上肢、下肢という具合にN型に進行します。あるいは片側の下肢から始まり、上肢、ついで反対側の下肢、上肢と逆N型に進行します。

 震えは、安静時1秒間に5回くらいの規則的な震えが特徴的で、緊張により増強します。手を意図的に動かすことで一時的に止まります。字を書いているうちに次第に文字が小さくなる小字症がしばしばみられます。

 また、瞬きが少なくなり、表情に乏しい仮面様顔貌になります。声量が乏しくなり、小声で早口、抑揚がなく聴き取りにくくなります。進行するとよだれや唾液誤飲によるむせも目立ちます。

 姿勢は比較的早期から前屈みになり、右あるいは左に傾くことも多くなります。歩行時は手の振りがなく、小刻み・すり足で、歩いているうちに加速し、柱などにつかまらないと立ち止まれないこともあります(突進現象)。

 方向転換時にはしばしば足がすくんで前に出なくなる、すくみ足もみられます。ベッド上での寝返りは早期から困難となり、衣服の着脱、ボタンのとめはずしに時間がかかります。

 発病数年前から嗅覚が低下するほか、自律神経症状として便秘、夜間頻尿、顔の脂ぎり、発汗過多あるいは減少、立ちくらみ、手足の冷感なども高頻度にみられます。熟眠障害、レム睡眠の時期に体が動き出してしまうレム睡眠行動障害)、進行に伴い精神症状(抑うつ、快感消失、認知症、幻覚、もう想)などがみられることもあります。


診断
【図1】症状の重症度と日常生活障害度
山本光利:パーキンソン病Q&A.1995より引用、著者改変

 手足の震え(振戦)、こわばり(筋固縮)、動作が遅い(動作緩慢)、バランスが保てない(姿勢反射障害)といった中核となる運動症状の中で1つ以上の症状があり、他の原因(脳卒中、特定の薬の服用、脳腫瘍、頭部外傷、CO中毒、脳炎罹患後、他の変性疾患など)を除外できて、抗パーキンソン病薬で症状が改善する場合にパーキンソン病と診断されます。

 診察のみでは判断が難しい場合は検査を行います。

 検査では頭部MRI、脳血流シンチグラフィー(脳の局所的な血流の低下を確認)に異常が
なく、MIBG心筋シンチグラフィー(心臓に分布している交感神経終末の減少を確認でき、
パーキンソン病では低下)、DATスキャン(ドーパミントランスポーターの分布が低下)などに異常がみられます。

 症状の重症度はホーン・ヤールの重症度分類が繁用され、日常生活障害度は厚労省の生活機能障害度が用いられます(図1)。


原因

 遺伝性(家族性)のものと非遺伝性(孤発性)のものがあり、後者が全体の90%を占めます。原因はまだ明らかにはなっていませんが、近年Braak(ドイツの病理学者)が堤唱している仮説が注目されています。すなわち、嗅粘膜と腸管の上皮から中枢神経系(脳)に向かう未確認の病原体が侵入して、レヴィ小体と呼ばれる神経細胞内封入体を形成してパーキンソン病を引き起こすという説です。

 鼻腔の嗅粘膜から嗅神経を通って、海馬、扁桃体、大脳皮質へと伸展するルートと、腸粘膜から副交感神経節前線維、迷走神経背側運動核、青斑核、中脳黒質、大脳皮質へと伸展するルートが考えられています。

 運動症状が出現する4年以上前から嗅覚の低下、便秘などの症状がみられることが知られていますが、このBraak仮説のレヴィ小体が形成される部位とよく一致しています。

 進行すると中脳黒質が障害され、震えなどの運動症状が出現することになります。

 ちなみに、中脳黒質のドーパミン神経細胞が変性脱落して、当初40万個ぐらいあった神経細胞が20%以下くらいまで減少することで、運動症状が出現するといわれています。病気とは無関係に健常者でも神経細胞数は年々減少しますので、120歳くらいまで長生きすれば全ての人がパーキンソン病になる計算になります。


治療

 薬物療法と非薬物療法(定位脳手術、刺激療法、細胞移植、遺伝子治療、リハビリテーション)があります。薬物療法とリハビリテーション(メモ)が治療の両輪となるように思います。

 薬物療法の中心になるのは、L―DOPA合剤で、効果も最も確実です。問題点として、服用開始後5〜6年を過ぎたあたりから、当初は朝昼夕の3回の服用で終日効果がみられていたのが、薬の効果のある時間が短縮して2〜3時間で切れたり、薬が多すぎると身体が勝手にクネクネと動く異常運動(ジスキネジア)が出たり、幻覚が見えたりすることが挙げられます。

 70〜75歳以上で発症した高齢者に対してはL―DOPA合剤で治療を開始しますが、70歳以下の若年齢者に対しては、症状の改善を優先させる特別な理由がなければ、効果は弱いがジスキネジアを起こしにくいドーパミン受容体刺激薬で治療を開始します。

 一方、5〜6年以上経過し、L―DOPA合剤の効果が減弱したりジスキネジアが目立つ進行期の症例に対しては、同剤の1回量を少なくして1日5〜8回服用する瀕回投与およびドーパミン受容体刺激薬の併用、塩酸アマンタジンの追加などで様子を見ます。

 薬物療法だけではコントロールが難しい場合はL―DOPA合剤が効いていることなどいくつかの条件を満たす場合に刺激療法や定位脳手術などを選択することもあります。


【メモ】リハビリテーション
【図2】【ねじり運動】
腰のねじり運動は、寝返り動作の準備としても重要です。

 ラジオ・テレビ体操で行われているような運動のほか、手すりにつかまってスクワットなどを毎日続けることが望ましいと思います。

 余裕があれば、仰臥位で腹筋運動、腹臥位で頭を上げたり、下肢を持ち上げたり、寝返りの練習、四つばいで右手と左下肢(逆も)を上げてバランスの訓練、低い台からの立ち上がり、目や口を強く閉じたり、大きく開いたり、大きく息を吸い込み長く発声する練習、散歩、水中歩行、グランドゴルフ、楽器演奏、家庭園芸などからできそうなものを試して、積極的に身体を動かしていただければと思います(図2)。


【スクワット運動】
きつい場合は無理せず手すりにつかまって。


【バランス訓練】
四つばいになり、それぞれ反対側の腕と足をあげてバランスをとります。


パーキンソン病と上手につきあうために

◎パーキンソン病とはどのような病気かを知ることが大切です。

◎60歳以上であれば誰でもかかる可能性がある病気です。

◎病気はゆるやかに進行するが、病状に合わせて、種々の治療法があります。

◎毎日適度の運動を行うことが症状の進行を防ぎます。

◎パーキンソン病患者さんの寿命は健常者とほとんど変わりないところまで治療法が向上してきています。

◎日常生活を楽しみ、社会参加を心がけましょう。


執筆いただいたのは
城南病院
内野 誠 院長

熊本大学名誉教授
熊本保健科学大学特任教授
日本神経学会専門医・指導医
日本脳卒中学会専門医
日本認知症学会専門医・指導医