すぱいすのページ

「あれんじ」 2010年7月17日号

【四季の風】
【第4回 花菖蒲】

めぐりくる季節の風に乗せて、四季の歌である俳句をお届けします。

花菖蒲垂れて耳順といふことば 中正

降るかなと思って家を出たのですが、吟行(ぎんこう)の貸切バスに乗って北へ向かうと明るくなってきました。めざすは玉名の高瀬裏川。今の季節は、やはり花菖蒲です。
 吟行の楽しさはまず、吟行地へ行くところから始まります。バスの窓から、田植えの準備が済んだ代田(しろた)をのぞみ、青々とした遠嶺を仰ぎながら、二年ぶりの高瀬の花菖蒲の美しさを心に思い描くのです。俳句を作るにも、心の準備というかウオーミングアップが必要で、目的地に着くまでに詩心を高めていくのです。
 菖蒲園に着いてみると、花もすでに盛りを過ぎたようで、花菖蒲祭も昨日で終わり。でも人出も少なくて静かだし、残花というのも、情のあるものです。水面をじっと見つめていると、一瞬、水面に鳥の影がよぎり、その時ふと私の心にも梅雨(つゆ)が兆(きざ)す気がしました。そういえば、一昨日が梅雨入り宣言でした。

鳥影のよぎる水より梅雨に入る
中正

 それにしても仲間たちは、同じ景色でも色々と上手に詠(よ)むものです。この菖蒲園に立つと、一昨年に来たときの花の盛りと、その折の素敵な俳句が思い出されます。
花菖蒲一切まぼろしの如く
松村葉子
枇杷熟るる高瀬裏川うすにごり
上妻一子
 最初の句は、花菖蒲の華やぎの奥に「一切まぼろしの如」き人の世のはかなさを見ておられるし、次の句の「枇杷熟るる」ころの川のうすにごりも、心にしっくりときます。
 私はというと、しきりに動き回る川蟹の赤にすっかり心を奪われて、
蟹の爪赤々と風淋しいぞ
中正
の句を作ったり、還暦(耳順(じじゅん))を迎えた一昨年ここで花菖蒲の豊かな花びらを見て作った句を思い出していました。

花菖蒲垂れて耳順といふことば 中正