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「あれんじ」 2015年1月10日号

【四季の風】
第28回 山眠る

 俳句では、山は冬になると眠るとされる。「山眠る」は冬の季語。冬山が、まるで胡坐でもかいて静かに眠ってしまったと見立てた先人たちのセンスには驚くが、本当にそう見えるのだ。山の獣たちが冬眠するように、山もまた深い眠りにつくという発想は、いかにも大らかで童話的でいい。なかには、ふっとうたた寝して眠りこんでしまったドジな山もあるかもしれない。

風が息するといふ音山眠る        山下接穂(つぎほ)

迂闊(うかつ)にも眠りし山もあるならん  岩岡中正

 さらに、この冬山は春になると目覚めて、笑いだす。俳句で「山笑う」といえば、春の山のこと。草木が薄々と緑に色づき鳥獣も人も動き始めて山ににぎわいが戻ると、これを「山笑う」と言う。それがなつかしい故郷の山であってみれば、いっそう心浮き立つものがある。

故郷やどちらを見ても山笑ふ      正岡子規

 ついでに言えば、春の笑う山に対して、秋の山は「粧う」。つまり、紅葉などの彩りを帯びて秋の山が美しくなることを、俳句では「山粧(よそお)う」と言う。

山粧ふけものの道もくれなゐに      檜(ひのき) 紀代

 山も、人間みたいに眠ったり笑ったり粧ったりと忙しい。ただ、ときに昨年の御嶽山や阿蘇中岳のように目覚めて敵意を見せることもある。