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「あれんじ」 2015年1月10日号

【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
多世代、多文化との交流がカギ コミュニケーションの磨き方

 先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか!

 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第27回のテーマは「コミュニケーション」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。

【はじめの一歩】

 他人とコミュニケーションのできない若者が増えているとよく聞きますが、今の大学生もそうなのでしょうか。そもそもコミュニケーションについて学ぶとはどういうことなのか、次々に湧いてくる疑問に対する答えを探すために、水元豊文教授の研究室を訪ねました。

読書嫌いはコミュニケーション下手?

 「しゃべることが苦手な学生が多いですね。同級生同士なら話せるのに、一学年でも違うとコミュニケーションがしづらくなる。その理由に興味があります」と、熊本大学文学部コミュニケーション情報学科の水元教授は語ります。今は携帯電話やメールで、打ち解ける相手を選べる時代。話したくない相手とは話さなくても済むという環境が、コミュニケーション下手を作っているとも言えるでしょう。

 「親しい友達同士なら話せるし、自分の得意なジャンルのことなら大丈夫ですが、人の話に合わせることができないのです。なぜなら、本を読まないのでそもそも会話のネタがなく、ネタの共有もできないということです。ネタを探しに行く好奇心、想像力も欠乏しているようです」と水元教授。「自分で境界線を作っているから広がりにくい。学生たちを見ていて極端に言えば、半径5mぐらいで生きていける時代なんですね。どこかで100m、200mにする努力が必要だと痛感します」


音読の効用

 水元教授は最近、授業で学生たちに論文を音読させていると言います。「声を出して言葉を音にするという基本的な訓練が、日本の教育から少なくなってきています。声を出す授業がないので、声が出ていない。だから相手に声が届かないんです」。高校までは部活などで声を出していても、大学では授業を聞くだけでレポートを書けばいいから声を出さなくて済むのです。

 もちろん、コミュニケーション学科は、プレゼンテーション、発表、ディベート(討論)などで声を出す機会は多いのですが、自分の声を自分でじっくり聞くことはありません。「自分自身の声に慣れるのがコミュニケーションの最初の段階」と水元教授。「だから、できるだけ大きな部屋で論文を音読させています。これは、自分の声に慣れることと、他人にも声を届かせる感覚を覚えさせる訓練です」

 ここでは、論文は目的ではなく手段。しかも、普段は読まない論文を、授業で自然に読むことになりますから、一石二鳥というわけです。


授業に組み込んだイベントでコミュニケーションを学ぶ

 「うちの研究室には3年生から大学院生までいろんな学生が入り混じって来ますが、その様子を見ていて分かるのは、コミュニケーションのテクニックを教えるよりも、場や空間を作ってあげた方が自然に会話できるようになるということです」。水元教授は、学生たちができるだけ多世代の人たちと交流する機会を作ろうと、さまざまなイベントを授業に組み込んでいます。

 一昨年は河原町の人たちと学生たちとで、地元の演劇人を招いて演劇ワークショップを行いました。その後、動植物園でモモタロウの演劇を上演。恥ずかしがらないことや、失敗してもいいという経験をしてもらうことが大事だと、水元教授は言います。「知り合いではなく、見知らぬお客さんが見ている場でやるというのが、コミュニケーション技法の訓練としては有効なのかなと思いますね」

 ゼミの学生たちに熊本市長の公約検証大会を実施させたこともありました。「他人と触れ合う場を作ってあげれば、苦手意識が払拭できると思っています。わざわざコミュニケーションを学ぶというと重たくなりますが、目的をずらして、イベントをやる過程でコミュニケーションに必要な手段が自然に学べるのが一番ではないかと思いますね」


相手に関心を持ち、好奇心と想像力を働かせよ

 コミュニケーション技法を学ぶ一環として、就職支援のための面接の練習も行われます。しかし、学生たちの多くは相手が自分の背景を知っているという前提でしゃべるので、どうしても説明不足になりがちだと言います。そこで水元教授は、相手が自分のことを何も知らないという前提で、自分をどこまでアピールできるかを訓練しています。そして、相手企業のことをよく知っておくことも大事な要素。「就活とは、会社研究テストである」と学生たちには話しているそうです。

 「うちの学科は海外留学する学生も多いんですが、英語力は高くても議論する力が弱いんです」。日本人のコミュニケーションが海外で受け入れられにくいのは、討論に必要な要素である主張とその理由や根拠が弱いからだと言います。「外国の人と分かり合えなかった時、“文化の違い”で逃げてはいけません。理解できない部分もあるということは当然のことだからです。それを承知の上で、じっくり丁寧にすり合わせていく努力が必要なんです」

 留学先でうまくコミュニケーションを成立させるには、「相手の国のことをよく研究していくことが肝心だ」と水元教授はアドバイスしています。「相手に強く関心を持ち、好奇心と想像力があればコミュニケーションは成り立ちます」

 自意識過剰で自分中心なのが、今の若者の問題ではないかと教授は考えています。会話の相手に中心をシフトすることで、見えてくるものがたくさんあるはず。「もっと多世代、多文化と交流をし、自分とは考え方や背景の違う人々に混じって暮らすことが一番大事。分かってもらえないことを前提に、伝える努力をしてほしいと思います」。


【なるほど!】

 10年前に、慶応大学から熊本大学に来た水元教授は、ずっと上乃裏通りに住んで歩いて通勤されているそうです。「道はジグザグに歩いたほうが魅力的。迷えば迷うほど面白い」と、いろんな通勤ルートを発見しては楽しんでおられると聞いて、この好奇心こそがコミュニケーションの極意だと納得しました。


【メモ1】研究室のモットーは「和顔愛語」

 仏教用語に「和顔愛語(わがんあいご)」という言葉があります。「大無量寿経」の中の言葉で、なごやかな笑顔と思いやりのある言葉で人に接することを表しています。水元教授の研究室には、この言葉が書かれており、ゼミの学生たちにも「和顔愛語」を意識させているそうです。

 「文系の学問は『概念』、つまりは言葉だと思います。言葉を一つひとつ丁寧に扱うことが、コミュニケーションがうまくいくコツなんです」と水元教授。「スマホを使っていると同じ言葉しか使わなくなり、語彙(ごい)不足になってしまいます。語彙力がないと会話の中身がなくなるので、語彙を操れるようにするのが大事。今の若者の言葉は軽いでしょう。“かわいい”“おいしそう”など、百語で済むんじゃないかというぐらいしか語彙を使っていません」。一語一語を大切に、語彙力を鍛えることがコミュニケーション力を鍛えることにつながりそうです。


【メモ2】ゼミの学生さんに聞きました

◎西村憲治さん(3年生)

 英文学よりも実践英語に関心があります。今年2月から12月までオーストラリアに留学します。多文化主義を学ぶ予定ですが、学問よりも人との出会いを大切にしていきたいと思っています。今、オーストラリアについて猛勉強中です。

◎章 丹芬さん(大学院2年生)

 中国の大学の日本語学科を卒業して、熊本大学大学院の留学生として東アジア・ビジネス・コミュニケーション専門職コースで勉強しています。シャイな性格で、コミュニケーションは苦手な方なので、水元先生のもとでもっとコミュニケーション力を磨きたいと思っています。

◎巌 智行さん(3年生)

 高校2年生の時に、オープン・キャンパスで水元先生の模擬授業を受けて、この先生のもとで勉強したいと思いました。人前で話すのが得意なので、プレゼンの授業に興味があります。自分の声にも慣れました。将来は、百貨店か商社に勤めるのもいいかなと思っています。


ナビゲーターは
熊本大学文学部
コミュニケーション情報学科
水元豊文教授

自分ではなく、相手を中心に考えて、好奇心と想像力を働かせればコミュニケーションは成り立ちます。