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【四季の風】第27回 霧
霧黄なる市に動くや影法師 夏目漱石 一番の親友・子規の死に心も虚ろな漱石。霧に動く人影にも子規の面影を求める、哀切の一句。ただ、この霧は「黄なる」だから、スモッグ気味の霧である。 そこで、霧で思い出したのが、喫茶「カリガリ」。四十二年余のつとめを終えて、今年三月惜しまれながら閉店。店頭に吊した洋燈に「カリガリ」の字が透けて、意外と霧が似合いそうなたたずまいだった。次の横光利一の句ではないが、ここはパリ、私のモンマルトルだった。 秋半ばモンマルトルの霧を思ふ 横光利一 ところで私の旅の霧の思い出は、高千穂の幻想的な霧。国生みの神話を大きく包み込む深い霧である。霧こそ、この世のはじまり、もののはじまりに一番ふさわしいものである。 霧とんで魂われを離れゆく 岩岡中正 万物のはじまりは霧かもしれぬ 〃