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「あれんじ」 2014年8月2日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
食事の欧米化に伴い増えてきた逆流性食道炎

 最近よく聞くようになった逆流性食道炎。文字のイメージで分かったような気になりますが、実際にはよく知らない人が多いのではないでしょうか。

 今回は、逆流性食道炎についてお伝えします。

はじめに

 生活環境や食習慣の変化に伴って、年齢を問わず、胃酸分泌が盛んな日本人が増えています。

 胃酸は食物中に含まれる細菌を殺菌したり、タンパク質の消化を助ける重要な役割を果たします。しかし酸が過剰に分泌され、酸に対する粘膜防御機能が低い食道に大量に逆流すると食道粘膜傷害(逆流性食道炎)を引き起こします。

 タンパク質や脂肪食は胃酸分泌を刺激する作用があり、食事の欧米化が進んでいる日本では、これらの過剰な摂取がこの病気を増やす大きな要因となっています。


逆流性食道炎とは
【図1】食道炎の原因

●「胃食道逆流症」と「逆流性食道炎」

 胃酸を含む胃の内容物が食道内に逆流することで、胸やけや、酸っぱいものが喉の奥に込み上げてくる呑酸(どんさん)などの不快な症状を起こした状態を、広義に「胃食道逆流症」といい、実際に内視鏡検査で食道の粘膜に炎症が起きた状態が確認された場合を狭義の「逆流性食道炎」と定義します。

 一般に逆流性食道炎と言う場合、「胃食道逆流症」と「逆流性食道炎」の両方の意味を含めているようです。

 通常食道には、胃酸に対する防御機能がないため、酸に繰り返しさらされることで炎症を起こし、粘膜のただれや潰瘍を来しますが、日本では胃酸の逆流だけで粘膜のただれなど起こさずに症状のみ(酸逆流症状)を訴える人が増えてきています。

●逆流が起きる原因

(1)食道と胃の境目の筋肉(下部食道括約筋)が緩んでいる(食道裂孔ヘルニアも含む)

(2)食道の動きが悪く、逆流した胃液を胃へ押し戻すことができない

(3)胃の中の圧力が高くなって、上向きの力が強くなり、胃液が押し上げられる

など、さまざまな病態が絡み合って起こります(図1)。


【主な症状】胸やけ、呑酸 心筋梗塞や喘息と区別が必要なことも

 「みぞおちのあたりから胸の下の方にかけて熱くなるような不快感」「胸がひりひりとしみる」「胸のあたりが重苦しい」「胸がなんとも嫌な感じ」「酸っぱいものが込み上げる」「ものを飲み込むとき、つかえる感じがある」「食べすぎたときや脂っこい食事をしたときに不快感がある」などの症状が、「胃食道逆流症」の主症状と言われています。

 時として(激しい)胸痛が主症状の場合もあり、その時は、心筋梗塞や狭心症との区別のため、心電図、血液検査、胸部レントゲンの検査を受ける必要があります。

 また胃酸の逆流がひどい場合は、喉の違和感、つまり、声のかすれ、睡眠中または横になった時に急に咳が出て止まらない、耳が痛いなどの症状が現れることもあります。


【診断】内視鏡検査や酸分泌抑制薬テストなどで
【図2】内視鏡所見

 正しく診断するためには、内視鏡検査、レントゲン(バリウム造影による)検査があります。食道の粘膜傷害を直接観察できるのは内視鏡検査のみです(図2)。他に食道内pHモニタリング検査、食道内圧検査がありますが、これらは専門的な検査であり一般的には行われていません。

 負担が少なく、診断的価値が高い検査法として、胃酸の分泌を抑える薬(酸分泌抑制薬)であるプロトンポンプ阻害薬(PPI)テストがあります。その強い酸分泌抑制力を利用して、PPIを1週間内服することで症状の改善、消失を認めた場合に、胃酸逆流による症状と診断することができます。


【治療法】生活習慣の改善と内服薬が重要

 胃酸逆流症状に対する治療法は、薬による治療と手術による治療法がありますが、ほとんどは薬による治療で症状が改善します。ただし胸やけを起こさないためには、毎日の生活にも以下の注意が必要です。

【食事と嗜好品(しこうひん)の注意】

● 食事は一度にたくさん食べずに、ゆっくりと。また食べすぎに注意する。

● タバコ、アルコール飲料、コーヒー、チョコレート、香辛料の多い食べ物や脂肪の多い食べ物、柑橘類などは控える。

【姿勢の注意】

● 前かがみの姿勢を避け、食事の後すぐに横にならないようにする。

● 夜間逆流症状が強い場合は就寝時にベットや敷き布団の上半身部分を高くする。

【腹部の圧迫への注意】

● ベルトや帯、コルセットはゆるめにする。

【内服薬】

 薬には、以下の4種類があります。

@酸分泌抑制薬

 逆流性食道炎の大きな原因となる胃酸の分泌を抑え、食道へ逆流する胃酸を抑えます。この働きを持つ薬にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)とヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の2種類がありますが、PPIがより強力に酸分泌を抑えます。

A消化管運動機能改善薬

 食道の動きを改善させ、逆流した胃酸を胃に戻す働きと、胃の運動を改善して胃から十二指腸への排出を促進する働きがあります。

B粘膜保護剤

 食道粘膜に作用し、胃酸による傷害を防ぐ働きがあります。

C制酸薬

 胃酸を中和する働きがあります。

 症状や食道炎の程度により薬の効果に多少の違いがありますが、生活習慣の改善と薬の組み合わせでほとんどの方が治ります。

 食道粘膜の長期の炎症は、メモ1で紹介しているバレット食道の発生につながります。バレット食道は腺がんの発生母地になりますので、食道炎を認めた場合はきちんとした治療により炎症を治すことが、がんの予防につながります。

●注意

 胃・十二指腸潰瘍または胃がんで胃の手術をされている場合の逆流性食道炎は、胃酸の逆流だけでなく胆汁の逆流も影響しますので治療法が変わることがあります。主治医の先生と相談されることをお勧めします。


【メモ1】

●バレット食道

 食道は、体表の皮膚と類似した扁平上皮(へんぺいじょうひ)という粘膜で覆われていますが、炎症などで粘膜が傷害されると、その部位の扁平上皮の粘膜が胃の粘膜に似た円柱上皮(腺上皮)に置き換わる場合があります。その状態を、その報告者の名前からバレット食道と呼んでいます。

 日本では、食道がんの大半は扁平上皮がんですが、欧米では、食道がんの約半数はバレット食道から発生する腺がんであり、バレット食道は腺がんの発生母地(ぼち)として注目されています。

 日本でも今後、逆流性食道炎の増加によりバレット食道がんが増えると予想されています。


話を聞いたのは
服部胃腸科
櫻井宏一 理事長・院長
医学博士
・日本消化器内視鏡学会指導医・
専門医
・日本消化器病学会専門医
・日本消化管学会認定医
・日本内科学会認定医
・日本肝臓学会専門医
・日本産業医認定医